養子縁組で遺留分はどう変わる?横浜市の弁護士が事例つきで整理
- 誠 大石

- 2月9日
- 読了時間: 14分
更新日:2 日前
養子縁組で遺留分はどう変わる?横浜市の弁護士が事例つきで整理
「養子を増やせば、他の相続人の遺留分を減らせるのではないか」
相続対策や事業承継の場面で、このような発想から養子縁組を検討する方は少なくありません。実際、養子は実子と同じく相続人になるため、相続人の数が増えれば、一人あたりの法定相続分や遺留分に影響が出ることがあります。
もっとも、養子縁組は単純に「他の相続人の取り分を薄める手段」とは言い切れません。なぜなら、養子自身も新たな相続人となり、場合によっては遺留分を請求できる立場になるからです。しかも、長男の妻や孫を養子にするケース、再婚相手の連れ子を養子にするケースなど、家族関係が複雑になりやすい場面では、かえって新たな紛争の火種になることもあります。
特に、後継者に自社株や事業用資産を集中させたい事業承継では、養子縁組を使った相続設計が検討されることがありますが、遺留分の問題まで見据えずに進めると、相続開始後に大きな争いに発展しかねません。
この記事では、横浜市で相続案件を扱う弁護士の視点から、養子縁組によって遺留分がどう変わるのか、他の相続人の取り分にどのような影響があるのか、そして実務上どのような点に注意すべきかを、数値例も交えながらわかりやすく整理します。
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養子縁組をすると遺留分はどう変わる?まず押さえたい基本
養子は実子と同じく相続人になり、遺留分も持つ
まず大前提として、養子は養親との関係では実子と同じ立場に立ちます。したがって、養子になれば法定相続人となり、法定相続分も認められます。そして、遺留分を有する相続人の範囲に入る場合には、養子もまた遺留分を持ちます。
この点は、相続対策を考えるうえで非常に重要です。養子縁組によって、既存の相続人の取り分に影響が出る一方で、新たに遺留分権利者を増やすことにもなるからです。
「養子にすれば、後継者に財産を寄せやすくなる」という理解は一面では正しいものの、「その養子自身にも権利が生じる」という反対側の側面を見落としてはいけません。
養子縁組で変わるのは「全体の相続人の数」と「一人あたりの取り分」
養子縁組が遺留分に影響を及ぼすのは、相続人の人数構成が変わるからです。
遺留分は、まず誰が相続人になるのかが決まり、そのうえで各相続人の法定相続分を基礎に計算されます。したがって、養子が増えれば、子として数えられる人数が増え、その結果として他の子の法定相続分が変動することがあります。
たとえば、子が2人いる家庭で、さらに1人を養子にした場合、子全体で分ける割合は変わらなくても、一人あたりの割合は3等分になります。そのため、既存の子1人あたりの取り分は小さくなります。これは遺留分についても同じ発想です。
もっとも、相続人全体の組み合わせによって結果は異なります。配偶者がいるのか、子だけなのか、直系尊属が相続人になるのかによって、法定相続分の前提自体が変わるためです。
遺留分対策として養子縁組が検討される代表的な場面
実務で養子縁組が問題になりやすいのは、主に次のような場面です。
一つは、事業承継です。長男や後継者に自社株や事業用資産を集中させたいと考え、後継者の配偶者や孫を養子にするケースがあります。
二つ目は、再婚家庭です。再婚相手の連れ子と養子縁組をすることで、その子にも相続権を与えたいという場面があります。ただし、前妻の子や先妻の子がいると、相続人の人数や家族関係が複雑になりやすく、遺留分トラブルの原因になることがあります。
三つ目は、家業や不動産の承継です。特定の家系や親族に財産を集中させたいという意向から、孫や親族を養子にすることがあります。しかし、形式としては有効でも、他の相続人との感情的対立を深めることは珍しくありません。
養子を増やすと遺留分は減る?数値例でわかりやすく解説
子が2人いるケースで養子を1人増やした場合の変化
たとえば、被相続人に配偶者はおらず、子が2人いるとします。この場合、子が2人で相続人ですから、法定相続分は各2分の1です。子のみが相続人であれば、遺留分全体は遺産の2分の1となり、各子の遺留分は4分の1ずつです。
ここで、新たに1人を養子にしたとします。すると、子は合計3人となります。法定相続分は各3分の1となり、遺留分全体が遺産の2分の1である点は変わりませんが、各子の遺留分は6分の1ずつに変わります。
このように、養子を増やすことで、既存の子1人あたりの遺留分が小さくなることはあります。これが「養子縁組で遺留分を薄める」と言われる理由です。
ただし、見方を変えれば、追加された養子にも6分の1の遺留分が発生します。つまり、他の相続人の遺留分を減らした代わりに、新たな遺留分権利者を1人増やしたことになります。
配偶者と子がいるケースで、養子縁組が遺留分に与える影響
次に、配偶者と子2人がいるケースを考えます。この場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子全体で2分の1、子1人あたり4分の1です。遺留分全体は遺産の2分の1なので、配偶者の遺留分は4分の1、子1人あたりの遺留分は8分の1となります。
ここで1人を養子にすると、子は3人になります。法定相続分は配偶者が2分の1のまま、子全体で2分の1、子1人あたり6分の1となります。遺留分全体は同じく2分の1ですから、配偶者の遺留分は4分の1のままですが、子1人あたりの遺留分は12分の1に下がります。
つまり、この類型では、配偶者の遺留分は変わらず、子の一人あたりの遺留分が下がることになります。そのため、「子の遺留分を一定程度抑えたい」という発想から養子縁組が検討されることがあります。
もっとも、ここでも新たに養子となった人に12分の1の遺留分が発生するため、単純に紛争リスクが減るとは言えません。
孫や長男の妻を養子にした場合、他の相続人の遺留分はどうなるか
孫や長男の妻を養子にするケースがあります。
たとえば、長男に家業を継がせたい、あるいは長男家に不動産を承継させたいという意向から、長男の妻や子を養子にすることがあります。そうすると、その人も法定相続人になりますから、他の子の一人あたりの相続分・遺留分は下がる方向に働きます。
しかし、ここで注意が必要なのは、形式上は相続分が変わっても、他の相続人が「そこまでして長男家に寄せたいのか」と不公平感を強く抱きやすいことです。法的には説明できても、感情的には納得しにくいという場面が少なくありません。
特に、相続財産の中心が自宅不動産や事業用資産で、分けにくい財産ばかりである場合、遺留分侵害額請求の問題が表面化しやすくなります。
養子を増やしても、必ずしも希望どおりの相続対策になるとは限らない理由
養子縁組によって相続人の人数が増えれば、既存の相続人の一人あたりの遺留分が下がることはあります。もっとも、それだけで対策として十分とはいえません。
なぜなら、遺留分の争いは単なる数字の問題だけではなく、「誰に、なぜ、どれだけ渡すのか」という納得感の問題でもあるからです。養子縁組が、被相続人の意思として合理的に説明できるケースもあれば、特定の相続人を有利にするためだけに行われたように見えるケースもあります。後者では、相続開始後の不満や対立が非常に強くなりがちです。
また、遺留分を減らす意図で養子を増やしたとしても、遺産の大半を一人に集中させれば、なお遺留分侵害額請求を受ける可能性は残ります。したがって、養子縁組はあくまで全体設計の一部として考えるべきです。
養子縁組で遺留分を減らす対策は本当に有効か
他の相続人の取り分を薄められる場面
たしかに、養子縁組によって子の人数が増えれば、既存の子の法定相続分や遺留分が小さくなる場面はあります。その意味では、一定の場合においては、相続対策として機能することがあります。
特に、後継者にある程度の財産を集中させたいが、他の子の遺留分負担も調整したいという場面では、計算上の効果が見込まれることがあります。
ただし、どれだけ効果があるかは、もともとの相続人構成、養子の人数、遺産の内容によって大きく異なります。数字だけを見て「使える対策だ」と判断するのは危険です。
養子本人が新たな遺留分権利者になるという見落としやすいリスク
養子縁組の最大の注意点はここにあります。養子を入れた瞬間、その人自身が新たな権利者になります。
たとえば、後継者に財産を集めるために、後継者の配偶者を養子にしたとします。この場合、他の子の一人あたりの遺留分は下がるかもしれませんが、その配偶者本人にも相続権と遺留分が生じます。すると、相続開始後にその養子自身の権利関係も絡み、かえって整理が難しくなる場合があります。
さらに、養子となった人が将来的に被相続人家族との関係を悪化させた場合には、当初想定していなかった対立が生じる可能性もあります。養子縁組は一度成立すると、相続の場面に大きな影響を与えるため、慎重な判断が必要です。
「遺留分を減らすためだけの養子縁組」が紛争を招きやすい理由
相続人は、単に法律上の数字だけで動くわけではありません。家族の中で長年積み重なった関係性や感情が、相続の場面で一気に噴き出すことはよくあります。
そのため、「遺留分を減らしたいから養子を増やした」という意図が透けて見えると、他の相続人の反発を強く招くことがあります。とりわけ、長男家だけを優遇しているように見えるケースや、再婚相手側の子を取り込んだように見えるケースでは、「生前から不公平だった」「最後まで差をつけられた」という不満につながりやすいのが実情です。
法的に有効な手段であっても、紛争を防ぐとは限らない。この点を見誤ると、対策のつもりがむしろ火種を増やす結果になりかねません。
横浜市でも相談が多い 養子縁組と遺留分で揉めやすいケース
長男の妻を養子にして後継者側へ財産を寄せたいケース
家業や不動産を長男家にまとめたいという意向から、長男の妻を養子にすることがあります。すると、長男本人に加え、その妻も相続人になるため、長男家全体に財産を寄せやすくなります。
しかし、他の兄弟姉妹から見ると、「なぜ義理の家族まで相続人にするのか」という不信感につながりやすい類型です。相続対策としては理屈があっても、家族内の公平感を損ないやすく、遺留分請求だけでなく遺産分割全体でも対立が深まる傾向があります。
孫を養子にして家業承継を進めたいケース
後継者として期待する孫を養子にするケースもあります。孫が事業に関わっている場合には、事業承継の文脈で合理性が説明できることもあります。
ただし、他の子や孫との間で扱いに差があると、不公平感は強くなります。また、「なぜその孫だけなのか」「実質的には長男家への集中承継ではないか」といった不満が生じやすく、相続開始後に感情的な対立へ発展することがあります。
再婚相手の連れ子を養子にしたケースで前妻の子との間に争いが生じる場面
再婚家庭では、再婚相手の連れ子と養子縁組をしていることがあります。この場合、その連れ子も相続人になります。
一方で、前妻の子や先妻の子がいると、「自分たちの取り分が減った」「再婚後の家族ばかり優遇された」と感じることがあります。もともと関係性が薄い、あるいは疎遠だった場合には、遺留分をめぐる対立が表面化しやすくなります。
この類型では、戸籍上の整理だけではなく、生前の説明、遺言の作成、財産の配分理由の明確化が非常に重要です。
事業承継で養子縁組を使うときの遺留分の注意点
自社株や事業用資産を後継者へ集中させたい場面で養子縁組が使われる理由
事業承継では、自社株や事業用不動産、経営に必要な資産を後継者に集中させる必要があります。分散すると経営が不安定になり、事業継続に支障を来すことがあるからです。
そのため、後継者側の立場を強める一手段として、養子縁組が検討されることがあります。たとえば、後継者である孫を養子にする、あるいは後継者の配偶者を養子にするといった形です。
もっとも、事業承継において重要なのは「集中承継の必要性」と「他の相続人への配慮」をどう両立させるかです。養子縁組だけでその問題を解決できるわけではありません。
後継者を養子にすると、他の相続人と養子本人の双方に配慮が必要になる
後継者を養子にすれば、後継者側の相続権を厚くできる場合があります。しかし、その一方で、他の相続人の遺留分や不満にも配慮しなければなりません。しかも、新たに養子となった後継者自身の権利関係も加わるため、相続設計はむしろ複雑になります。
とりわけ、自社株の評価額が高い場合には、後継者に集中承継させた結果、他の相続人から高額な遺留分侵害額請求を受けることがあります。事業を守るつもりで取った対策が、かえって資金負担を生み、経営を圧迫することもあるため注意が必要です。
事業承継では養子縁組だけでなく、遺言・生前贈与なども含めた検討が重要
事業承継の現場では、養子縁組だけで十分ということはほとんどありません。遺言による承継先の明確化、生前贈与の活用、株式や不動産の保有方法の見直しなど、複数の方法を組み合わせて検討する必要があります。
また、遺留分をめぐる紛争を見据えるなら、なぜその承継方法を取るのか、なぜ後継者に集中させる必要があるのかを説明できる状態にしておくことが重要です。事業を守るための承継なのか、単なる身内びいきと受け取られるのかで、相続人の反応は大きく変わります。
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養子縁組と遺留分を考えるうえで、あわせて確認したい関連知識
養子縁組だけを見ていても、相続全体の問題は整理できません。遺留分侵害額請求の仕組みや請求期限、生前贈与が遺留分計算に与える影響、再婚家庭や認知した子がいる場合の相続関係など、周辺知識もあわせて確認する必要があります。
たとえば、養子縁組によって相続人が増えたとしても、過去の生前贈与の内容によっては遺留分算定の前提が大きく変わることがあります。また、前妻の子や認知した子がいる場合には、戸籍を追って相続人を正確に確定しなければ、そもそも計算の出発点を誤るおそれがあります。
関連記事として、前妻の子・再婚家庭・認知した子の遺留分に関する記事、遺留分侵害額請求の基本を解説した記事、生前贈与と遺留分の関係を整理した記事、事業承継と遺留分対策の記事もあわせて確認すると、理解が深まりやすいでしょう。
養子縁組による遺留分対策を検討する際のポイント
養子縁組を相続対策として検討する場合には、まず「誰の取り分がどう変わるのか」を数字で具体的に確認することが必要です。感覚的に「少し薄まるだろう」と考えるのではなく、相続人構成を前提に、法定相続分と遺留分を一度整理するべきです。
次に重要なのは、「新たに誰が権利者になるのか」を見落とさないことです。養子は他の相続人の取り分を減らすための道具ではなく、それ自体が独立した相続人になります。この視点を欠くと、相続開始後に想定外の主張が出ることがあります。
さらに、税務や戸籍、家族関係まで含めた総合的な検討が必要です。形式的に養子縁組が成立しても、相続全体として望ましい設計になっていなければ、対策として成功したとはいえません。
そして何より、家族の感情面を軽視しないことが重要です。相続は法律問題であると同時に、家族関係の問題でもあります。法的に可能だから進める、ではなく、将来どのような不満や対立が生じうるかまで見据えたうえで判断する必要があります。
まとめ|養子縁組は遺留分対策になることもあるが、新たな争いを生むこともある
養子は、養親との関係では実子と同じく相続人となり、遺留分を持つ場合があります。そのため、養子を増やせば、他の相続人の一人あたりの法定相続分や遺留分が変わることがあります。数字だけ見れば、一定の場合には「他の相続人の取り分を薄める効果」があるといえるでしょう。
しかし、それは同時に、新たな遺留分権利者を増やすことでもあります。したがって、「遺留分を減らすための養子縁組」は、常に安全で有効な対策とは限りません。むしろ、長男家の配偶者や孫を養子にするケース、再婚相手の連れ子を養子にするケース、事業承継で後継者に財産を集中させたいケースでは、かえって新たな火種になることもあります。
大切なのは、養子縁組だけを切り取って判断しないことです。遺言、生前贈与、事業承継の設計、家族への説明なども含め、全体として無理のない相続対策になっているかを検討する必要があります。
横浜市で、養子縁組を含む相続対策や事業承継を検討している方は、家族関係や財産内容が複雑になる前の段階で、弁護士に相談することをおすすめします。早い段階で論点を整理しておくことで、将来の遺留分トラブルを防ぎやすくなります。
以上、養子縁組で遺留分はどう変わる?横浜市の弁護士が事例つきで整理でした。
弁護士 大石誠
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