遺留分侵害額請求の調停とは?申立て方法・流れ・期間・費用を横浜の弁護士が解説
- 誠 大石

- 1月13日
- 読了時間: 11分
更新日:2 日前
はじめに
「相手方に内容証明を送ったが、無視されている」「交渉の場を設けたが、金額で折り合わない」「話し合い自体を拒否されている」——遺留分侵害額請求を進めようとして、こうした壁にぶつかっている方が相談に来られることがよくあります。
裁判外の交渉が行き詰まったとき、次の手段として検討するのが家庭裁判所での「調停」です。
この記事では、遺留分侵害額請求の調停がどのような手続きなのか、申立て方法・準備する書類・費用・期間の目安・調停で決まった場合の効力・弁護士なしでも対応できるかを、実務の視点から整理します。
「調停に進むべきか、どうすれば進められるか」を判断するための記事です。
遺留分侵害額請求の調停とは
1-1. 調停は「第三者を介した話し合い」の手続き
調停とは、裁判所の調停委員(裁判官1名+調停委員2名が一般的)が間に入り、当事者双方の話を聞きながら合意形成を目指す手続きです。判決のような「裁判所が白黒つける」手続きではなく、あくまでも「合意に向けた話し合い」の場です。
遺留分侵害額請求における調停は、家庭裁判所に申し立てる「遺留分侵害額の請求に関する調停」として行われます。
1-2. 調停前置主義:遺留分請求は調停を先に経ることが原則
遺留分侵害額請求訴訟を地方裁判所に提起する前には、原則として先に家庭裁判所での調停を試みる必要があります。これを「調停前置主義」といいます(家事事件手続法257条)。
つまり、交渉がまとまらない場合の次のステップは「いきなり訴訟」ではなく、「まず調停→調停不成立なら訴訟」という順番が法律上定められています。調停を飛ばして訴訟を起こすことは原則としてできない点を押さえておいてください。
【遺留分請求の解決ルート】
裁判外交渉(内容証明・協議)
↓ 不成立・拒否・無視
家庭裁判所での調停(調停前置)
↓ 調停不成立
地方裁判所での訴訟
1-3. 調停のメリットとデメリット
観点 | 内容 |
メリット① | 第三者(調停委員)が間に入るため、当事者同士より冷静な話し合いになりやすい |
メリット② | 調停調書は強制執行力を持つ(支払いが滞れば即座に執行できる) |
メリット③ | 訴訟より費用・時間・精神的負担が少ない傾向がある |
メリット④ | 非公開手続きのため、プライバシーが守られる |
デメリット① | 相手方が調停に出席しない・強硬姿勢を崩さない場合は不成立になる |
デメリット② | 調停委員が法律の専門家とは限らず、不動産評価など専門的な争点は整理が難しいこともある |
デメリット③ | 複数回の期日が必要なことが多く、解決まで数か月かかる場合がある |
申立て方法——どこに、何を、どうやって
2-1. 申立て先(どの裁判所か)
調停の申立て先は、原則として「相手方(受遺者・受贈者)の住所地を管轄する家庭裁判所」です。
神奈川県内の場合、主な申立て先は次のようになります。横浜市・川崎市・相模原市の一部が横浜家庭裁判所(本庁)、横須賀市・三浦市周辺が横浜家庭裁判所横須賀支部、小田原市・足柄地域が横浜家庭裁判所小田原支部、平塚・茅ヶ崎・藤沢周辺が横浜家庭裁判所平塚支部、厚木・大和・座間周辺が横浜家庭裁判所厚木支部といった形です。
相手方が神奈川県外に住んでいる場合は、その住所地を管轄する家庭裁判所に申立てることになります。遠方になると移動・日程の負担が増えるため、早い段階で相手方の住所を確認しておくことが重要です。
【注意】相手が県外在住の場合
相手が東京都内に住んでいれば東京家庭裁判所、大阪なら大阪家庭裁判所への申立てが必要になります。弁護士に依頼する場合はその弁護士が出廷しますが、本人申立ての場合は遠方への移動が必要になる点を考慮してください。
2-2. 申立てに必要な書類
調停申立てに必要な書類は以下のとおりです。裁判所によって書式が異なる場合があるため、申立て先の裁判所ホームページか窓口で最新版を確認してください。
書類・資料 | 備考 |
調停申立書 | 裁判所の書式あり。家庭裁判所のホームページからダウンロード可 |
被相続人の除籍謄本(死亡を証明) | 出生〜死亡の戸籍一式が揃っているとより確実 |
相続関係説明図 | 誰が相続人かを図示したもの |
遺言書の写し(ある場合) | 公正証書遺言の謄本、自筆証書遺言の写しなど |
財産関係の資料(分かる範囲で) | 不動産登記事項証明書・残高証明書・固定資産評価証明書など |
申立手数料(収入印紙) | 請求額・申立内容によって異なる(後述) |
郵便切手(予納郵券) | 裁判所が相手方への通知に使用。金額は裁判所に確認 |
すべての書類が完璧に揃っていなくても申立て自体は受理されます。「期限が迫っている」という場合は、揃っている書類だけで先に申立て、不足分は後から補完するという方法も取れます。
2-3. 申立て費用
調停申立てにかかる費用は大きく「収入印紙代」と「予納郵券代」の2つです。
収入印紙代は請求金額によって変わります。目安として、請求額が100万円以下なら2,000円程度、500万円なら4,000円前後、1,000万円なら6,000円前後ですが、正確な金額は申立て前に裁判所に確認してください。予納郵券は1,000〜2,000円程度が多いですが、こちらも裁判所によって異なります。
訴訟の印紙代と比べると大幅に安く抑えられることが調停の大きなメリットの一つです。
調停の流れ——申立てから解決まで
3-1. 申立てから第1回期日まで
申立書を家庭裁判所に提出すると、裁判所が相手方に呼出状と申立書の写しを送付します。第1回期日の日程は通常、申立てから1〜2か月後に設定されます。相手方が裁判所からの呼出に応じなかった場合は、調停不成立として扱われ、訴訟へ移行することになります。
3-2. 調停期日の進め方
調停期日は、申立人と相手方が同じ日に家庭裁判所に出向きますが、基本的に同室で話し合うわけではありません。調停委員が双方を交互に別室に呼び、それぞれの言い分を聞きながら調整していく形が一般的です。
1回の期日にかかる時間は1〜2時間程度、期日と期日の間隔は通常1〜2か月です。1回で解決することはまれで、複数回の期日を経て合意に向かうのが通常です。
3-3. 調停で争点になること
遺留分の調停で実際に議論される主な争点は以下のとおりです。単に「いくら払うか」だけでなく、計算の前提部分から意見が割れることが多いです。
争点の種類 | 具体的な内容 |
請求者の資格・適格 | 本当に遺留分権利者か(兄弟姉妹は対象外) |
時効・期間制限 | 「知った日から1年」が経過していないか |
基礎財産の範囲 | 何が相続財産か、生前贈与はどこまで含まれるか |
不動産の評価方法 | 固定資産評価・路線価・時価(査定・鑑定)のどれを使うか |
生前贈与の有無と金額 | 通帳の振込が贈与か生活費かの認定 |
支払方法 | 一括か分割か、担保・期限の利益喪失条項をどうするか |
3-4. 調停が成立した場合
双方が合意に至ると「調停調書」が作成されます。調停調書は裁判所が作成する公式な書面であり、確定判決と同じ強制執行力を持ちます。
つまり、「分割払いで合意したのに相手が支払わなかった」という場合でも、調停調書があれば改めて訴訟を起こす必要なく、相手の預貯金や不動産の差押えなど強制執行の手続きに直接進めます。これが調停成立の最大の価値です。単なる示談書(私文書)では強制執行はできないため、調停まで進んで合意書を作ることには大きな意味があります。
【調停調書に必ず入れるべき項目】
・支払金額(総額)
・支払期限(一括の場合は期日、分割の場合は各回の支払日)
・遅延損害金の利率と起算日
・期限の利益喪失条項(支払遅滞が一定回数に達した場合は残額一括請求)
・清算条項(本件に関し、以後互いに何らの債権債務がないことを確認する)
3-5. 調停が不成立になった場合
相手方が一切応じない、意見の対立が解消されない、といった場合は「調停不成立」となります。この場合は地方裁判所への訴訟提起に移行します。調停で提出・準備した資料は訴訟でもそのまま活用できるため、調停が不成立になっても無駄にはなりません。
調停にかかる期間の目安
調停の解決までにかかる期間は、事案の複雑さと相手方の協力度によって大きく変わります。目安として以下を参考にしてください。
ケースの状況 | 解決までの目安 |
争点が少なく、相手が概ね協力的 | 2〜4回の期日・3〜6か月程度 |
不動産評価や生前贈与で意見が割れている | 4〜8回の期日・6〜12か月程度 |
相手が強硬で調停に消極的 | 不成立になる可能性も。長期化する前に訴訟移行を検討 |
相手方が県外在住で日程調整が難しい | 期日間隔が広がり1年以上かかる場合も |
調停期間中も時効の問題はありません。調停を申し立てた時点で時効の進行は止まります(完成猶予→更新)。ただし、調停中に長期化することで相手方の財産状況が変わるリスクもあるため、必要に応じて仮処分(財産保全)の検討も視野に入れます。
弁護士なしで調停に臨めるか
調停は弁護士なしでも申立て・出席できます。「本人申立て」「本人出席」は法律上可能であり、費用を抑えたい場合の選択肢にはなります。
ただし、遺留分侵害額請求の調停で弁護士なしで臨むことにはリスクがあります。
弁護士なしのリスク | 具体的な問題 |
金額の計算を相手ペースで進められる | 基礎財産・評価・生前贈与の範囲を正しく検算できなければ、過少な合意をしてしまう |
時効・適格などの法的論点を見落とす | 相手方(または相手弁護士)の主張に押されて、本来争えた論点を見逃す |
調停調書の条項設計が甘くなる | 強制執行力を担保する条項(期限の利益喪失・清算条項など)を入れ忘れる |
感情的なやり取りになりやすい | 親族間の感情対立が深い場合、本人が直接対応するとヒートアップしやすい |
相手方がすでに弁護士をつけている場合は特に注意が必要です。法的知識の非対称が生じ、不利な条件での合意を誘導されるリスクがあります。
「費用が心配で弁護士に頼めない」という方は、法テラスの費用立替制度や、着手金の分割払いに対応している事務所を探すことを検討してください。
調停を有利に進めるための準備
6-1. 「計算表+証拠」を整えて臨む
調停は「話し合いの場」ですが、根拠のある数字を持って臨まないと調停委員にも相手方にも主張が通りません。最低限、以下の形で資料を整理してから申立てることを強くおすすめします。
【調停前に揃えておくべき資料】
① 相続関係説明図(誰が相続人か・遺留分割合の根拠)
② 財産目録(相続開始時点の預貯金・不動産・有価証券の一覧)
③ 生前贈与の裏付け資料(振込明細・贈与契約書・通帳コピー)
④ 不動産評価資料(登記事項証明書・固定資産評価証明・路線価・査定書)
⑤ 遺留分侵害額の計算表(基礎財産→遺留分割合→侵害額の流れ)
6-2. 「着地点」を事前に決めておく
調停に臨む前に、自分のゴールを明確にしておくことが重要です。「満額でないと合意しない」という姿勢で臨むと、調停が長期化し不成立になりやすくなります。
実務的には、「早期に確実に回収したい(7〜8割でも合意優先)」「時間がかかっても満額を狙う(訴訟も覚悟)」「親族関係を壊さず穏やかに解決したい(金額より方法優先)」という3つのゴール設定が考えられます。どれを優先するかによって、調停での提案の仕方が変わります。
6-3. 不動産評価は「レンジ提示」で交渉する
横浜・神奈川の案件で特によく起きるのが不動産評価をめぐる対立です。請求側が「実勢価格で計算すべき」と主張し、相手方が「固定資産評価で足りる」と主張して平行線になるパターンです。
こうした場合、調停では「固定資産評価◯◯万円〜査定価格◯◯万円の範囲」というレンジを示し、「この幅のどこかで合意しませんか」という提案をすることで話が動くことがあります。一点張りの主張は調停委員にも「非現実的」と映りやすいため、幅を持たせた現実的な提案が功を奏することが多いです。
まとめ——調停に進む判断のポイント
遺留分侵害額請求の調停について、要点をまとめます。
確認事項 | 要点 |
調停とは何か | 家庭裁判所の調停委員が間に入る合意形成の手続き。訴訟の前に原則として経る必要がある(調停前置) |
申立て先 | 相手方住所地の家庭裁判所。神奈川県内なら横浜家庭裁判所(本庁・各支部) |
費用 | 収入印紙+郵便切手。訴訟より大幅に安い |
期間の目安 | 3か月〜1年程度。争点が多いほど・相手が非協力的なほど長くなる |
調停成立の価値 | 調停調書は強制執行力を持つ。私文書での示談より確実に回収できる |
弁護士なしのリスク | 計算・法的論点・条項設計のミスが回収額に直結する。相手が弁護士をつけている場合は特に注意 |
調停不成立の場合 | 地方裁判所への訴訟に移行。調停の資料はそのまま活用できる |
交渉が行き詰まっているなら、早めに調停申立てを検討することをおすすめします。調停への移行は「負け」ではなく、解決を確実にするための合理的な選択です。また、調停の申立て自体が相手方に「本気で動いている」というシグナルになり、交渉が再開するきっかけになることも実務ではよくあります。
横浜で遺留分調停のご相談
「調停に進むべきか」「申立書をどう書けばよいか」「相手が弁護士をつけた」——こうした段階でのご相談も歓迎しています。まず一度、状況を整理するだけでも構いません。
以上、遺留分侵害額請求の調停とは?申立て方法・流れ・期間・費用を横浜の弁護士が解説でした。
弁護士 大石誠
横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階 横浜平和法律事務所
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