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公正証書遺言に納得いかない方へ 横浜の弁護士が無効・遺留分を解説

  • 執筆者の写真: 誠 大石
    誠 大石
  • 3月1日
  • 読了時間: 14分

はじめに

「兄だけ多く相続する内容になっていて納得できない」

「前妻の子だけが優遇されているように見える」

「親の介護を長くしてきたのに、自分の取り分が少なすぎる」

このように、公正証書遺言の内容を見て強い不公平感を抱く方は少なくありません。


しかも、公正証書遺言は公証役場で作成されるため、「公正証書遺言だから諦めるしかないのではないか」と感じてしまう方も多いでしょう。たしかに、公正証書遺言は一般の自筆証書遺言に比べて方式面での不備が起こりにくく、証拠としても強い遺言です。しかし、公正証書遺言であればどのような内容でも必ず受け入れなければならない、というわけではありません。


大切なのは、納得いかない理由を整理することです。たとえば、遺言そのものが無効ではないかと考える場面もあれば、遺言は有効でも最低限の取り分である遺留分を請求できる場面もあります。また、相続人全員が合意できるのであれば、遺言とは異なる分け方で解決できるケースもあります。


つまり、「公正証書遺言に納得いかない」という悩みには、主に3つの対応の方向性があります。ひとつは遺言無効確認請求、もうひとつは遺留分侵害額請求、そしてもうひとつは相続人全員の話し合いによる別の分け方です。


この記事では、横浜で相続案件を扱う弁護士の視点から、公正証書遺言に納得いかない場合に考えられる3つの選択肢を整理し、それぞれの違い、争いになりやすい典型例、最初に何から着手すべきかをわかりやすく解説します。


公正証書遺言に納得いかないときでも諦めなくてよい理由

公正証書遺言は、公証人が関与して作成される遺言です。そのため、本人確認や方式面のチェックが行われ、一定の信用性があります。この点だけを見ると、「公正証書遺言なら争っても無駄なのではないか」と思われるかもしれません。


しかし、現実には、公正証書遺言でも相続争いは起きています。なぜなら、争点は必ずしも方式違反だけではないからです。遺言を作った時点で本人に十分な判断能力があったのか、誰かが強く誘導していなかったのか、特定の相続人だけが極端に優遇されていないか、遺留分が侵害されていないかなど、問題となる点はさまざまです。


また、相続の現場では、法律の問題と感情の問題が重なります。たとえば、「兄だけ優遇されていて悔しい」「親の近くに住み、介護も生活支援もしてきたのに報われない」「前妻の子と後妻側の家族との関係がもともと難しかった」など、単純な損得だけでは整理できない不満が噴き出します。公正証書遺言があるからといって、そうした感情が消えるわけではありません。


そのため、まず必要なのは「何を争うのか」を見極めることです。遺言の効力そのものを争うのか、それとも効力は前提にしつつ遺留分を請求するのか。あるいは、法的に争い切るよりも、相続人全員で話し合って柔軟な解決を目指すのか。この整理ができるだけで、その後の動き方は大きく変わります。


公正証書遺言に納得いかないときの対処法① 遺言無効確認請求

遺言無効確認請求とは、その名のとおり「この遺言は法的に無効である」と裁判所で確認を求める手続です。公正証書遺言に対して納得いかないとき、最も強い手段に見えるかもしれません。しかし、実際にはどの事案でも使えるわけではなく、相応の根拠が必要です。


よくある誤解として、「内容が不公平だから遺言は無効になるのではないか」というものがあります。ですが、相続分に偏りがあるというだけで直ちに遺言が無効になるわけではありません。親が生前、ある子に多く財産を残したいと考えること自体はあり得ます。不公平に感じることと、法的に無効であることは別問題です。


では、公正証書遺言でも無効が問題になるのはどのような場面でしょうか。


典型例のひとつは、遺言作成時の判断能力が疑わしいケースです。たとえば、認知症がかなり進んでいた、医療記録上も意思能力に疑問がある、遺言内容を本人が十分理解できていたのか怪しいといった場面です。公証人が関与していても、当時の医学的な状況や生活状況から判断能力が争われることはあります。


例えば、遺言書の作成能力について争われた事例をいくつか紹介します。

まず、東京地裁令和5年8月17日判決は、遺言能力とは「遺言の内容を理解し、その結果を弁識するに足りる能力」であるとし、①遺言時の精神状態・医学的診断、②遺言内容の難易・合理性、③作成経緯、④相続人との関係等を総合考慮するとしています。

その他の裁判例・解説でも、遺言能力の判断は、精神障害の有無・程度、遺言の複雑性や動機、相続人との関係等を総合判断するとの整理がなされている。

医療記録を重視して公正証書遺言を無効した事例もあります(東京地裁平成26年11月6日判決)。

これは認知症を理由に遺言能力が争われた事案で、判決は、遺言日から約8か月前・約半年前・遺言後10日後の診療録・看護記録だけを証拠として、遺言能力欠如を認定し、公正証書遺言を無効としました。

診療録に「失見当識著明」「入院していることを理解していない」等の記載があり、それらを丁寧に拾い上げて判断しています。

​その他にも、認知症の進行と複雑な内容を理由に公正証書遺言を無効とした事例もあります。

ある事案では、主治医が介護保険意見書に「日常の意思決定を行うための認知能力は見守りが必要」と記載していたこと、遺言内容が複雑で中等度〜高度のアルツハイマー型認知症である遺言者には理解困難であったこと等から、遺言能力を欠いていたと判断されています。

他方で、認知機能検査の点数が低くとも、遺言内容が単純で、被相続人が内容と効果を理解できたと認められる場合には、遺言能力が肯定された事例もあります。


次に、他人による強い関与や誘導が疑われるケースです。たとえば、特定の相続人が親を囲い込み、他の子と接触させずに遺言作成を主導していた、遺言の内容がその相続人に一方的に有利で、しかも作成経緯に不自然さがあるような場合です。もちろん、親のサポートをしただけで直ちに問題になるわけではありませんが、本人の真意が失われていた疑いがあるなら無効主張を検討する余地があります。


さらに、作成経過や内容そのものに不自然さがある場合もあります。これまでの親子関係や生前の発言と大きく食い違う内容になっている、財産状況の理解が不正確なまま作成されている、本人が細かい内容を把握していなかった可能性があるなどです。


もっとも、遺言無効確認請求は簡単ではありません。公正証書遺言には一定の信用性があるため、「なんとなく納得できない」という程度では足りず、客観的な資料を集めて主張立証していく必要があります。診療記録、介護記録、遺言作成前後のやり取り、関係者の陳述などの積み重ねが重要になります。


そして、無効が認められた場合には、遺言がないものとして法定相続や別の遺言の有無に従って相続が進むことになります。ただし、無効主張が認められなかった場合には、時間も労力もかけたのに結論が変わらないということもあり得ます。実際に、遺言無効確認請求が排斥された裁判例もあります。ですから、感情だけで突き進むのではなく、証拠関係を踏まえて見通しを立てることが大切です。


公正証書遺言に納得いかないときの対処法② 遺留分侵害額請求

遺言無効確認請求と並んで重要なのが、遺留分侵害額請求です。これは、遺言が有効であることを前提にしたうえで、一定の相続人に保障された最低限の取り分が侵害されている場合に、その不足分を金銭で請求する手続です。


ここで重要なのは、遺言無効確認請求との違いです。遺言無効確認請求は「そもそも遺言が無効だ」と争うものです。他方で、遺留分侵害額請求は「遺言自体は有効でも、自分の最低限の取り分は守られるべきだ」と求めるものです。つまり、遺言そのものをひっくり返す手続ではありません。この違いを理解していないと、進むべき方向を誤ってしまいます。


たとえば、父が全財産を兄に相続させるという公正証書遺言を残していたとします。これを見て弟や妹が「兄だけ優遇されていて納得いかない」と感じるのは自然です。このとき、父に十分な判断能力があり、遺言作成経緯にも特に不自然さがないのであれば、遺言無効を主張しても認められない可能性があります。しかし、弟や妹が遺留分をもつ立場なら、遺留分侵害額請求によって最低限の取り分を求めることができます。


もっとも、誰にでも遺留分があるわけではありません。遺留分が認められるのは、配偶者、子、直系尊属です。これに対し、兄弟姉妹には遺留分がありません。この点は誤解が非常に多いところです。たとえば、被相続人に子がいないため兄弟姉妹が相続人になる場合でも、兄弟姉妹には遺留分がないため、「不公平だ」と感じても遺留分請求ができないことがあります。詳しくは「兄弟姉妹には遺留分はあるのか」の記事で確認しておくとよいでしょう。


また、前妻の子がいるケースでは、後妻や後妻の子との間で不公平感が強くなりやすいです。たとえば、前妻の子から見れば「長年疎遠だったのに、遺言で後妻側に大きく偏っている」と感じることがありますし、逆に後妻側から見れば「最後まで面倒を見たのはこちらなのに」と思うこともあります。こうしたケースでも、まずは法的に誰に遺留分があり、どの程度侵害されているのかを冷静に整理する必要があります。


さらに、「介護したのに少ない」という不満もよくあります。長年親の介護や身の回りの世話をしてきたにもかかわらず、遺言ではほとんど財産をもらえない内容になっていると、強い怒りを抱くのは当然です。この場合、遺留分がある立場であれば、少なくとも最低限の取り分を請求できる可能性があります。また、事情によっては寄与分など別の論点が問題になることもありますが、公正証書遺言がある事案ではまず遺留分の可否を確認することが多いでしょう。


なお、遺留分侵害額請求には期限があります。請求できると思って安心しているうちに期間が経過してしまうと、権利行使が難しくなるおそれがあります。相続が発生し、遺留分が侵害されていることを知った場合には、早めに期限を確認しなければなりません。詳細は期限に関する記事も参考にしてください。


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公正証書遺言に納得いかないときの対処法③ 相続人全員の合意で別の分け方をする

公正証書遺言があると、その内容どおりにしか相続できないと思われがちです。しかし、相続人全員が合意しているのであれば、遺言とは異なる分け方で遺産を分けることができる場合があります。実務上、これは非常に重要な選択肢です。


たとえば、遺言では不動産を長男が単独で取得する内容になっていたとしても、相続人全員が納得していれば、売却して代金を分けたり、別の財産との調整をしたりすることが考えられます。遺言がある以上、法的にはその内容が出発点になりますが、全員が一致しているなら、より現実に合った解決が可能になるのです。


ただし、ここで重要なのは「全員合意」であることです。一部の相続人だけで話をまとめても、他の相続人が同意していなければ後で問題になります。前妻の子がいるケースや、兄弟間の感情対立が強いケースでは、知らないうちに話が進んでいたとして大きな不信感につながることもあります。


話し合いによる解決が向いているのは、遺言の有効性自体を強く争うつもりはないものの、実際の事情に即した調整をしたい場合です。たとえば、主な財産が自宅不動産で、そのままでは分けにくいケースや、介護負担を考慮して少し上乗せしたいケースなどでは、訴訟よりも話し合いのほうが適していることがあります。


もっとも、話し合いで解決する場合でも注意点があります。口約束のままにせず、合意内容を書面に残すこと、名義変更や払戻しの手続まで見据えて内容を整えること、税務面にも配慮することが必要です。感情的なやり取りだけで進めると、いったん合意したはずの内容が後で蒸し返されることもあります。


公正証書遺言に納得いかないからといって、必ず訴訟をしなければならないわけではありません。相続人全員が柔軟な解決を望んでいるなら、話し合いによる解決は現実的で有効な手段です。


横浜で実際に多い公正証書遺言でも争いになる典型事例


公正証書遺言でも争いになる事例には、ある程度共通したパターンがあります。


第一に、兄だけ優遇されているケースです。たとえば、親と同居していた長男が自宅不動産も預貯金もほぼ取得する内容になっており、他のきょうだいにはわずかな金額しか残されていない場合です。同居や世話の実態があるなら一定の合理性があることもありますが、その説明が十分でなければ、不公平感は非常に強くなります。


第二に、前妻の子と後妻側の家族が関わるケースです。家族関係が複雑で、生前の交流の濃淡も異なるため、遺言の内容が「誰かに偏っている」と受け取られやすくなります。この類型では、法律問題だけでなく、長年の感情の蓄積が表面化しやすいのが特徴です。


第三に、介護したのに少ないケースです。親の通院付き添い、施設入所の手配、日常生活の支援などを長年担ってきた相続人からすれば、遺言でほとんど評価されていないように見えると強い不満を抱きます。他方で、被相続人が別の理由で他の相続人を優遇した可能性もあり、感情と法的評価が必ずしも一致しません。


第四に、生前贈与や不動産の扱いが絡むケースです。相続開始前から一部の相続人に多額の援助がされていたり、自宅不動産の評価をどうみるかで意見が分かれたりすると、公正証書遺言の内容だけでは解決しません。遺産全体を見渡した整理が必要になります。


公正証書遺言に納得いかないとき 何から着手すべきか

公正証書遺言に納得いかないとき、最初にすべきことは感情的に相手を責めることではありません。まずは資料と事実関係を整理することが重要です。


第一に、遺言書の内容を正確に確認します。誰が何を取得するのか、遺言執行者の指定はあるのか、付言事項はあるのかを把握しなければなりません。


第二に、相続人の範囲を確認します。前妻の子がいるのか、認知した子がいるのか、代襲相続が生じていないかなどを戸籍で確認する必要があります。誰が当事者なのかを誤ると、その後の話し合いや請求に支障が出ます。


第三に、遺産の全体像を把握します。預貯金、不動産、有価証券、生命保険、生前贈与の有無などを整理しなければ、遺留分の判断もできません。


第四に、無効主張を考えるなら資料収集を急ぎます。診療記録、介護記録、要介護認定資料、遺言作成前後のやり取り、関係者のメモなど、時間が経つほど収集が難しくなるものもあります。


第五に、遺留分を考えるなら期限を確認します。請求のタイミングを逃すと取り返しがつかないことがあります。


そして、これらを整理した段階で、できるだけ早く弁護士に相談することが大切です。無効を主張すべき事案なのか、遺留分請求が中心になるのか、全員での合意形成を目指すべきなのかは、初動での見極めが非常に重要だからです。


横浜の弁護士に相談するメリット

公正証書遺言に納得いかない場合、当事者同士で話しているうちに感情的な対立が深まり、かえって解決が遠のくことがあります。特に、兄だけ優遇されているケースや、前妻の子が関わるケース、介護負担の不公平感があるケースでは、本人同士では冷静な話し合いが難しいことも少なくありません。


弁護士に相談するメリットは、まず法的な選択肢を整理できる点にあります。遺言無効確認請求を検討すべきか、遺留分侵害額請求が現実的か、全員合意による解決が可能かを、証拠や期限も踏まえて判断できます。


また、相手方との交渉窓口を弁護士が担うことで、感情的な応酬を避けやすくなります。さらに、合意で解決する場合でも、後で争いになりにくい形で書面化し、手続まで見据えて進めることができます。


横浜で相続案件を扱う弁護士に早めに相談すれば、地域の事情や実務感覚も踏まえながら、今の状況で何を優先すべきかを整理しやすくなります。公正証書遺言だからといって諦める必要はありませんが、闇雲に動くのも得策ではありません。見通しを立てたうえで進めることが大切です。


まとめ 公正証書遺言に納得いかないときは3つの選択肢を整理して判断を

公正証書遺言に納得いかないときでも、直ちに諦める必要はありません。考えるべき選択肢は、大きく分けて3つあります。遺言そのものの効力を争う遺言無効確認請求、遺言が有効であることを前提に最低限の取り分を求める遺留分侵害額請求、そして相続人全員の合意による別の分け方です。


大切なのは、「不公平に感じる」ことと「法的にどの手段が取れるか」を分けて考えることです。兄だけ優遇されている、前妻の子が関わっていて複雑、介護したのに少ないなど、納得いかない理由は人それぞれです。しかし、その不満に対してどの方法が適切かは事案によって異なります。


まずは遺言書、戸籍、遺産の内容、作成経緯に関する資料を確認し、期限を意識しながら対応を検討することが重要です。一人で抱え込まず、早めに弁護士へ相談し、ご自身のケースで取り得る手段を整理することをおすすめします。


以上、公正証書遺言に納得いかない方へ 横浜の弁護士が無効・遺留分を解説でした


弁護士 大石誠

横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階 横浜平和法律事務所

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