遺言・生前贈与・民事信託の違いとは?財産承継のメリット・デメリットを解説
- 誠 大石
- 2024年11月11日
- 読了時間: 6分
遺言・生前贈与・民事信託の比較と特徴
財産の承継には「遺言」「生前贈与」「民事信託」の3つの主要な方法があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、状況に応じた選択が必要です。
以下、それぞれの特徴を整理しながら比較します。
各承継方法の比較表
項目 | 遺言 | 生前贈与 | 民事信託 |
目的 | 死後の財産承継 | 生前に財産を移転 | 財産管理と承継の組み合わせ |
発効時期 | 遺言者の死亡時 | 贈与契約締結時 | 信託契約締結時(または条件成就時) |
変更・撤回 | いつでも撤回可能(新しい遺言で上書き) | 原則不可(贈与契約締結後は撤回困難) | 信託契約の内容次第(撤回可能な場合も) |
課税関係 | 相続税(相続税の基礎控除適用) | 贈与税(基礎控除・特例適用あり) | ケースにより贈与税・相続税が発生 |
遺留分との関係 | 侵害されると遺留分侵害額請求の対象 | 特別受益として遺留分の対象となる可能性あり | 信託財産も遺留分侵害の可能性あり |
確実性 | 遺言執行者を指定しないと執行が難航することあり | 直ちに受贈者に権利が移るため確実 | 信託契約の設計次第で柔軟な対応が可能 |
主な活用場面 | 一般的な相続対策 | 生前の相続対策、事業承継 | 認知症対策、資産管理、事業承継 |
各承継方法の特徴と注意点
1. 遺言
特徴
遺言者の死後に効力が発生し、財産を特定の者に承継させる。
公正証書遺言は確実性が高く、トラブルを避けやすい。
自筆証書遺言は手軽だが、法的要件を満たさないと無効になる可能性がある。
注意点
遺留分の問題:遺言内容が相続人の遺留分を侵害すると、遺留分侵害額請求の対象になる。
遺言執行者の選定:指定しないと手続きが煩雑になる。
遺言が適していないケース
(1) 財産の長期的な管理を要する場合
理由:遺言は「死後の財産分配」にしか適用できず、認知症対策や事業承継には不向き。
代替案:民事信託を利用し、財産管理を受託者に託すことで、本人の判断能力が低下してもスムーズな管理が可能。
(2) 遺言執行者の指定が難しい場合
理由:適切な遺言執行者がいないと、手続きが滞る可能性がある。
代替案:民事信託では受託者が財産を管理できるため、スムーズな執行が可能。
2. 生前贈与
特徴
即時に財産を移転できるため、確実な承継が可能。
贈与税の基礎控除(110万円)や相続時精算課税制度を利用すると税負担を抑えられる。
注意点
贈与税の負担:基礎控除額を超えると高額な贈与税が発生する。
名義預金の問題:形式だけの贈与と認定されると、相続財産として扱われることがある。
撤回不可:原則として、一度贈与すると撤回できない。
生前贈与が適していないケース
(1) 贈与税の負担が大きすぎる場合
理由:生前贈与には年間110万円の基礎控除があるが、それを超えると高額な贈与税が発生する(最高税率55%)。
代替案:遺言による相続や相続時精算課税制度の利用で税負担を抑える。
(2) 受贈者が未成年・浪費癖がある・管理能力が低い場合
理由:財産を移転すると、本人の意思に関係なく自由に使われてしまい、財産管理ができない。
代替案:民事信託を活用し、受託者が適切に管理できる仕組みを構築する。
(3) 将来的に財産の使い道をコントロールしたい場合
理由:一度贈与すると、基本的に撤回できず、贈与者の希望通りの使い方ができなくなる。
代替案:民事信託を活用し、受託者に財産管理を任せ、一定の条件のもとで承継できるようにする。
(4) 事業承継に適さない場合
理由:自社株の生前贈与は贈与税が高額になる可能性があるほか、分割すると株主が分散し、経営権の安定性が損なわれる。
代替案:民事信託を利用し、受託者が事業を管理する仕組みにする。
3. 民事信託
特徴
財産の管理と承継を同時に設計できる柔軟な仕組み。
認知症対策としても有効(委託者の判断能力が低下しても信託財産の管理が可能)。
遺言代用信託として、遺言と同様の効果が得られる。
注意点
信託の適切な設計が必要:内容によっては税制上のメリットが得られない場合がある。
事業承継税制の適用が困難:生前贈与とは異なり、事業承継税制を利用できないことが多い。
遺留分との関係:信託財産の扱いによっては遺留分侵害請求の対象となる可能性がある。
民事信託が適していないケース
(1) 受託者が適切な管理者でない場合
理由:民事信託では、受託者が財産を管理するため、信頼できる人物がいない場合は適用が難しい。
代替案:遺言執行者を指定することで、相続発生後の財産管理をスムーズにする。
(2) 遺留分侵害のリスクが高い場合
理由:信託された財産が相続財産としてみなされると、法定相続人から遺留分侵害額請求がなされる可能性がある。
代替案:遺言と組み合わせて適切に財産を分配する。
(3) 一定額の財産しかなく、信託コストが見合わない場合
理由:民事信託の設定には、契約書の作成、登記手続き、管理手数料などのコストが発生するため、少額の財産には向かない。
代替案:遺言や生前贈与の活用が合理的。
(4) すべての財産を対象にする必要がある場合
理由:信託は、信託契約で指定した財産にのみ適用されるため、包括的な資産承継には向かない。
代替案:遺言を利用し、すべての財産を対象にする。
まとめ
遺言・生前贈与・民事信託の違いとは?財産承継のメリット・デメリットを解説しました。
まとめると以下のように整理されます。
承継方法 | メリット | デメリット |
遺言 | 遺言者の意思を最大限に反映できる | 遺留分侵害請求のリスク、確実な執行が必要 |
生前贈与 | 直ちに財産を移転でき、税制特例の活用が可能 | 贈与税の負担が大きく、撤回が難しい |
民事信託 | 柔軟な管理が可能で、認知症対策にも適している | 信託契約の設計が重要、税制上の扱いが複雑 |
また、各方法の適していないケースを整理すると、以下のようになります。
適さないケース | 遺言 | 生前贈与 | 民事信託 |
認知症で意思能力が低下 | ×(無効の可能性) | △(後見人が必要) | ○(設定済みなら有効) |
争族リスクが高い | ×(遺留分侵害の可能性) | △(特別受益の問題あり) | ○(適切な設計で回避可能) |
長期的な財産管理 | ×(死後のみ有効) | ×(即時移転のため) | ○(柔軟に管理可能) |
高額な財産の移転 | ○(相続税の方が有利な場合あり) | ×(贈与税負担が大きい) | △(適用次第で税優遇も可能) |
事業承継 | △(株式移転に制約あり) | ×(株主分散リスク) | ○(受託者による経営可能) |
受贈者が未成年・浪費家 | ○(遺言執行者を指定) | ×(自由に使われるリスク) | ○(受託者が管理) |
遺留分対策 | ×(請求の対象になりやすい) | ×(特別受益として扱われる) | △(遺留分侵害請求があり得る) |
設定コスト | ○(公正証書遺言なら低コスト) | ○(税負担を除けば無料) | ×(信託契約のコストが高い) |
このように、各方法には適さないケースがあり、状況に応じた使い分けが重要です。
特に、財産の種類や家族構成、相続争いのリスクを考慮し、遺言・生前贈与・民事信託を適切に組み合わせることが望ましいです。
遺言は遺産の分配に最も適していますが、財産の移転が死後に行われるため、相続争いを防ぐには遺言執行者の指定や遺留分対策が必要です。
生前贈与は確実な承継手段ですが、贈与税の負担や撤回不能といったリスクがあります。
民事信託は、財産管理を含めた柔軟な承継が可能ですが、信託契約の適切な設計が不可欠です。
状況に応じてこれらの方法を組み合わせることで、最適な財産承継を実現できます。
弁護士 大石誠
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