清算型遺贈で不動産が売れない|原因の切り分けから打開策まで遺言執行者・相続人向け完全解説
- 誠 大石

- 4 分前
- 読了時間: 13分
はじめに――この記事でわかること
清算型遺贈の遺言が残されていても、指定された不動産がなかなか売れない――こうした状況は、遺言執行者にとっても相続人・受遺者にとっても深刻なストレスです。
結論から言うと、「売れない」原因は大きく「市場要因(価格・物件の問題)」と「人的要因(関係者の非協力・権限の曖昧さ)」に分かれます。
この二つを混同して対応策を取ると的外れになりやすく、かえって時間を浪費します。
清算型遺贈で不動産が売れない|原因の切り分けから打開策まで遺言執行者・相続人向け完全解説と題して、解説します。
★ ポイント この記事でわかること: (1)「売れない」原因を市場要因・人的要因に切り分ける判断軸 (2)遺言執行者の権限の範囲と、単独で動けない場面での対処順序 (3)関係者が非協力の場合の交渉手順・書面化ポイント・専門家連携の流れ |
清算型遺贈で不動産が売れない「本当の原因」はどこにあるか
★ ポイント 「売れない」には市場要因と人的要因の2種類があります。 まず原因を切り分け、次の打ち手を決めることが最優先です。 |
市場要因(価格・立地・物件状態)が原因の場合はどう確認するか
市場要因とは、不動産そのものの値付け・立地・物件コンディションに問題がある状態です。以下のような兆候が見られる場合、市場要因が主因と考えられます。
• 査定価格と近隣の成約価格に大きな乖離がある
• 内覧申込みが来ない、または来ても直後にキャンセルが続く
• 接道条件・再建築不可・土壌汚染リスクなど物件固有の問題がある
• 過疎地・管理費滞納・築年数が著しく古いなど「負動産」の性質がある
確認方法としては、複数の不動産業者(2〜3社以上)に査定を依頼し、それぞれの成約見込み価格と根拠を書面で取得するのが基本です。また、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」や近隣の成約価格データも参照すると、価格設定の妥当性を客観的に判断しやすくなります。
人的要因(受遺者・相続人の非協力)が原因の場合はどう見分けるか
市場要因より見落とされやすいのが人的要因です。典型例としては次のような状況が挙げられます。
• 受遺者が「もっと高く売れるはず」と主張し、価格設定に同意しない
• 相続人が売却活動に非協力的で、内覧の立会いを拒否する
• 遺言執行者の権限範囲について関係者間で解釈が食い違っている
• 相続人間の感情的対立が売却交渉に持ち込まれている
見分け方のポイントは「業者は売れると言っているか」です。複数業者が「価格・物件に問題はないが手続き・関係者の都合で動けない」と言うようであれば、人的要因が主因とみてよいでしょう。
【注意】原因の切り分けを誤ると対応策が的外れになるリスクがある
⚠ 注意 人的要因なのに価格だけを下げ続けると、受遺者への分配額が減るうえに問題は解決しません。 逆に、市場要因なのに「関係者を説得しよう」と動いても時間の無駄になります。 まず「業者に問題はないか」「関係者に問題はないか」の2軸で現状を整理することを最優先にしてください。 |
遺言執行者はどこまで単独で動けるか――権限と限界
★ ポイント 遺言執行者には法律上の権限がありますが、すべての行為を単独で行えるわけではありません。 特に価格変更・業者変更は事前の合意形成が重要です。 |
民法1012条・1013条が定める遺言執行者の権限の範囲とは
民法1012条は、遺言執行者は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定めています。
また民法1013条は、相続人が遺言執行者の権限を妨げる行為をした場合、原則としてその行為を受遺者等に対抗できないと定めており、相続人による売却妨害への法的対抗根拠になりうる規定です。
ただし、これらの規定が「何でも単独でできる」を意味するわけではありません。権限の行使が善管注意義務の範囲内であることが前提であり、大幅な値下げや業者変更が後から問題視されるリスクは残ります。
売却価格の値下げ・業者変更は遺言執行者だけで決められるか
実務上グレーゾーンになりやすいのがこの問題です。一般的な解釈としては以下のように考えられます。
• 売却活動の範囲内での業者変更:通常は遺言執行者の権限内と解されやすい
• 軽微な値下げ(相場の範囲内):遺言執行者の裁量範囲と考えられることが多い
• 大幅な値下げや相場を著しく下回る売却:受遺者・相続人への事前説明・合意形成が望ましい
特に、価格変更後に受遺者から「善管注意義務違反」と主張されるリスクを避けるためには、価格変更の根拠(査定書・市場データ)と関係者への説明記録を書面で残す順番が実務上重要とされています。
【注意】受遺者・相続人の同意なしに動いた場合に問われうる責任
⚠ 注意 遺言執行者が単独で大幅値下げや業者変更を行い、その後に受遺者から「もっと高く売れたはずの価格で売却した」と主張された場合、善管注意義務違反(民法644条準用)を根拠に損害賠償請求が行われることがあります。 単独で動く前に、価格決定の根拠資料の取得・関係者への書面による通知・合意確認の手順を踏むことが、事後的なリスク軽減につながります。 |
「売れない」が長引くと何が起きるか――時間軸で見るリスク
★ ポイント 売却が長期化すると、費用負担・法的責任・関係者との紛争が複合的に発生します。時間軸を意識した記録管理が不可欠です。 |
固定資産税・管理費の負担は誰にどう帰属するか
遺産が売却されるまでの間、不動産にかかる固定資産税・管理費・修繕費等は継続的に発生します。遺言書にこれらの費用負担について明記がない場合、誰が立て替え・最終的に誰が負担するかについて関係者間で紛争になるケースがあります。
一般的な整理としては、換価後の売却代金から控除することで精算する方法が取られることが多いですが、売却前に費用が積み上がると立替者と受遺者の間でトラブルになりやすいため、費用管理の取り決めを早期に書面化しておくことが望ましいと考えられます。
遺言執行者の善管注意義務違反と問われる典型的な場面
売却が長期化した場面で遺言執行者が「義務違反」と主張される典型例としては以下が挙げられます。
• 市場状況が変わったにも関わらず価格を長期間見直さなかった
• 売却活動を特定の1社だけに委ねて複数業者に照会しなかった
• 受遺者からの問い合わせに対して活動状況の報告をしていなかった
• 物件の管理(雨漏り・不法占拠等)を放置して資産価値を下げた
善管注意義務は「専門家として合理的に期待される注意」の水準が問われます。「活動したこと」の証明責任は実質的に遺言執行者側にかかってくることが多いため、記録の有無が重要な争点になります。
売却活動の記録をどのように残しておくべきか(書面化ポイント)
実務上、以下の記録を時系列で保存しておくことが推奨されます。
1. 不動産業者との委託契約書・査定書(複数社分)
2. 価格変更の都度、変更根拠となる資料(市場データ・業者意見書)
3. 受遺者・相続人への活動報告(メール・書面等)の送付記録
4. 内覧申込み状況・反響数のログ(業者から定期的に取得)
5. 費用の立替記録と領収書(固定資産税・管理費等)
★ ポイント 記録は「売れなかった理由を説明するための証拠」という意識で保管することが重要です。形式より内容の具体性が問われます。 |
受遺者・相続人が売却に非協力的な場合の対処順序
★ ポイント 人的要因の場合、いきなり法的手段に飛ぶのは逆効果になることが多いです。合意形成→書面化→法的手段の順番を守ることが重要です。 |
まず行うべき「関係者への説明と合意形成」のステップ
非協力の多くは「情報不足」「誤解」「感情的対立」が原因です。まず次の順番で動くことが実務上の基本とされます。
1. 現状の売却活動状況・価格設定根拠を文書にまとめ、全関係者に送付する
2. 「売れない理由」を客観的データ(査定書・市場データ)で示す
3. 価格変更や業者変更の提案を書面で行い、意見・同意を求める
4. 関係者の懸念点を個別にヒアリングし、記録を残す
5. 合意が得られた事項は書面(確認書・覚書)で確認する
この段階で「合意した・しない」「説明した・しない」の記録を残しておくことが、後の法的手続きにおける重要な前提になります。
交渉が決裂した場合に検討できる法的手段とその順番
合意形成が難しい場合、法的手段の検討に移ります。一般的に考えられる順番は以下のとおりです。
1. 内容証明郵便による通知(非協力の事実を記録に残す)
2. 弁護士を通じた交渉(当事者間の感情的対立を切り離す)
3. 調停(家庭裁判所または民事調停)の申立
4. 遺言執行の妨害行為に対する仮処分(緊急性がある場合)
5. 訴訟(最終手段)
法的手段は費用と時間がかかるうえ、関係者との関係をさらに悪化させるリスクもあります。「次の段階に進む前に合意の余地を確認する」姿勢で進めることが、実務上の合理的な順番とされています。
【注意】家庭裁判所への申立を使える場面と使えない場面
⚠ 注意 遺言執行者の選任・解任・後任選任は家庭裁判所が担いますが(民法1010条・1019条)、「受遺者が売却に同意しない」という問題そのものを家庭裁判所が直接解決してくれるわけではありません。受遺者との意見対立が解消されない場合は、民事上の紛争として弁護士を通じた交渉・訴訟ルートが本筋になります。家庭裁判所の活用場面と民事ルートの区別を誤ると、無駄な手続きに時間を費やすことになります。 |
物件の価値がほぼゼロ・マイナスの場合――「負動産」への対応
★ ポイント 負動産化した物件では「清算型遺贈の履行」自体が事実上不可能になることがあります。その場合の代替策と限界を整理します。 |
換価が事実上不可能と判断できる基準はあるか
「換価不能」の明確な法的基準はありませんが、実務的には以下の状況が重なる場合に換価困難と判断される傾向があります。
• 複数の専門業者が「現状では売却困難・引き受けられない」と書面で回答している
• 接道不備・再建築不可・土壌汚染等で買主への売却が法的・物理的に制約される
• 市場価格がほぼゼロまたはマイナスで、贈与・無償譲渡でも引き受け手がいない
• 固定資産税・解体費用等の維持コストが見込み売却額を恒常的に上回っている
こうした状況を記録として残しておくことが、後の関係者への説明や法的手続きにおいて重要な根拠となります。
【例外】清算型遺贈でも現物分割に切り替えられる可能性はあるか
⚠ 注意 遺言は遺言者の意思表示であるため、遺言執行者や相続人が単独でその内容を変更することは原則として許されません。ただし、相続人全員と受遺者全員が合意した場合に遺言と異なる処理(例:現物分配・相続放棄後の別処理)を行うことの可否については実務上も見解が分かれており、専門家(弁護士)への確認が不可欠な領域です。「全員合意があれば何でもできる」と安易に判断することは避けるべきです。 |
遺言執行者の辞任を検討すべき局面と手続きの流れ
換価が極めて困難な状況が続く場合、遺言執行者は正当事由のある辞任を検討することがあります。手続きの流れは一般に以下のとおりです。
1. 家庭裁判所に遺言執行者の辞任許可の申立(民法1019条2項)
2. 辞任が認められた場合、利害関係人の請求または職権で後任を選任
3. 後任が選任されるまでの空白期間中は売買契約・登記手続きが行えない点に注意
辞任を検討する際は、後任候補(弁護士・司法書士等の専門家)への打診と家庭裁判所への申立を並行して進めることで、空白期間を最小化できます。
売却を前進させるために今すぐ取るべき実務アクション
★ ポイント 「今すぐ動ける」ことを優先順位順に整理します。最初に取り組むべきは記録整備と原因の確認、次に関係者への書面通知です。 |
売却業者の見直し・入替えを検討するタイミングの目安
業者変更を検討するタイミングの目安として、実務的には次の状況が重なるケースが一つの基準とされています。
• 専任媒介・専属専任媒介の契約期間(3ヶ月)満了時に成果がない
• 問い合わせ件数・内覧件数がゼロに近い状態が2〜3ヶ月続いている
• 業者からの定期報告が形骸化し、具体的な改善提案が出ない
業者変更と同時に、変更の根拠(活動実績・成果の記録)を書面で取得しておくと、その後の関係者への説明がスムーズになります。また、一般媒介契約に切り替えて複数社に並行依頼する方法も選択肢の一つです。
価格変更前に準備しておくべき書面と確認事項
価格変更(特に大幅な値下げ)を行う前に、以下の書面・確認事項を整備することが実務上のリスク管理として重要です。
1. 複数業者による査定書の取得(変更後価格の市場整合性の根拠)
2. 値下げの根拠をまとめた説明文書(受遺者・相続人向け)の作成
3. 関係者への書面による事前通知と意見表明期限の設定
4. 合意が取れた場合は覚書・確認書の締結
5. 合意が取れなかった場合はその経緯を記録し、判断の根拠として保存
★ ポイント 価格変更後に「なぜもっと高く売らなかったのか」と問われたときに説明できる証拠を事前に準備する、という意識で進めると抜け漏れが防ぎやすくなります。 |
専門家(弁護士・司法書士)に依頼する場合、何をどの順番で相談するか
専門家への相談は「誰に何を頼むか」を明確にしてから動くと効率的です。人的要因(関係者対立・法的責任)がある場合は弁護士を最優先に、登記手続きが滞っている場合は司法書士と並行して相談することが基本的な進め方とされています。「とりあえず相談」ではなく、「今の課題を一言で説明できる状態」で相談に臨むと、専門家のアドバイスが的確になりやすいです。
よくある疑問――Q&A形式で整理
Q. 遺言執行者が辞任したら売却手続きはどうなるか
A. 遺言執行者が辞任した場合、後任が選任されるまでの間は、遺言執行者としての権限を持つ者が存在しない状態になります。この空白期間中は、売買契約の締結・所有権移転登記等の遺言執行行為が行えなくなります。後任は利害関係人の申立または家庭裁判所の職権で選任されますが、選任までに数ヶ月かかることもあります。辞任を検討する場合は、後任候補(弁護士・司法書士等の専門家)への打診と申立を並行して進めることで、空白期間を最小化することが重要です。
Q. 相続人全員と受遺者が合意すれば遺言と異なる処理はできるか
A. これは実務上も見解が分かれるデリケートな問題です。一般論として、「相続人全員と受遺者全員の合意がある場合に、遺言内容と異なる処理ができるか」については、遺言者の意思と相続人・受遺者の利益保護の両面から様々な考え方があります。「当事者全員の合意があれば何でもできる」と安易に判断して動くのはリスクが高く、遺言と異なる処理を検討する場合は、事前に弁護士に相談のうえ、法的根拠と手続きを確認することを強くお勧めします。
【注意】「もう少し待てば売れる」という判断をいつまで続けるべきか
⚠ 注意 「もう少し待てば売れる」という判断には明確な終わりがなく、長期化するほど固定資産税・管理費が積み上がり、遺言執行者の義務懈怠リスクも高まります。目安として、複数業者に依頼して6ヶ月〜1年以上動きがない、価格を20〜30%下げても反響がない、といった状況が続く場合は、専門家への相談と状況の根本的な見直しを検討すべき時期と考えられます。「待つ判断」もその根拠を記録しておくことが重要です。 |
弁護士 大石誠
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