相続に関する手続きを進める中で、相続人の中に行方不明者がいる場合、その処理方法について理解しておくことが重要です。
(ここ数年、このようなご相談がとても増えています)
行方不明の相続人がいると、相続手続きが複雑になり、他の相続人にとっても大きな負担となります。このような場合、法律に基づいた適切な手続きを踏むことで、スムーズに相続手続きを進めることが可能です。
前提として、行方不明の相続人がいる場合、他の相続人だけで遺産分割協議を進めることはできません。全ての相続人が参加して初めて遺産分割協議が有効となるからです。
そこで、行方不明の相続人がいる場合には、「不在者財産管理人」を選任する必要があります。
行方不明の相続人の権利を保護するために、家庭裁判所が選任した人物を「不在者財産管理人」といいます。
不在者財産管理人は、行方不明者の代わりにその財産を管理し、相続手続きに参加する役割を果たします。これにより、行方不明者の権利が適切に保護され、他の相続人も安心して手続きを進めることができます。
行方不明の相続人がいる場合の進め方。不在者財産管理人とは。というのが今回のテーマです。
【不在者財産管理人とは】
従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者を「不在者」といいます。
不在者に財産管理人がいない場合、家庭裁判所は、申立てによって、不在者や不在者の財産に利害関係を有する第三者の利益を保護するために、不在者財産管理人を選任することができます。
この制度は、行方不明者の財産を守り、その権利を適切に行使するために設けられています。
不在者財産管理人は、行方不明者に代わって、相続手続きに参加し、その権利と手続を保障する立場に置かれます。
【不在者財産管理人の役割】
不在者財産管理人の主な役割は以下の通りです:
1.行方不明者の財産を管理・保全する。財産目録の作成も行い、家庭裁判所への報告を行います。
2.相続手続きにおいて、行方不明者の代理人として参加する
3.必要に応じて、行方不明者のために財産を処分する
不在者財産管理人は、行方不明者の財産を適切に管理し、その権利を守るために重要な役割を果たします。家庭裁判所により選任されるため、信頼性が高く、公正な立場で業務を遂行することが求められます。
不在者財産管理人になるには、何か国家資格等は必要ありませんが、職務を適切に行えることが必要です。弁護士,司法書士などの専門職が選ばれることもあります。
特に重要なのは、不在者財産管理人は、不在者の権利を守ることを目的としていますので、不在者に不利な遺産分割協議はできません。最低でも法定相続分に対応する財産は確保する必要がありますし、法定相続分を下回る内容であれば裁判所が遺産分割協議に応じることを許可しないと考えておく必要があります。
【失踪宣告との違い】
不在者財産管理人と混同されやすい制度に、失踪宣告があります。
失踪宣告は、行方不明者が長期間消息不明である場合に、法律上、死亡したとみなす制度です。
不在者財産管理人と失踪宣告には、以下のような違いがあります。
1.手続きの違い
不在者財産管理人は、家庭裁判所に申し立てることで選任されますが、失踪宣告は、家庭裁判所に対して失踪宣告の請求を行い、一定期間(通常7年間)の経過後に認められます。
2.法的効果の違い
不在者財産管理人が選任されると、行方不明者の権利は保護されますが、行方不明者の死亡は法的に認められません。
失踪宣告が認められると、行方不明者は死亡したものとみなされ、相続手続きが開始されます。
不在者財産管理人は、不在者が生きていることを前提としているのに対して、失踪宣告は不在者を法律上死亡したとみなす制度になります。
【相続人が誰もいない!相続財産清算人との違い】
相続人が全くいない場合や、相続人が全員、相続放棄をした場合には、相続財産清算人が選任されます。
不在者財産管理人は、行方不明者の財産を「管理」「保存」するために選任されます。
一方、相続財産清算人は、相続人が不在または全て相続放棄した場合に、相続財産の処分や債務の支払い(「清算」)を行うために選任されます。
【不在者財産管理人を選任するときの注意点】
不在者財産管理人を選任する際には、以下の点に注意が必要です。
1.適切な候補者の選定
不在者財産管理人には、信頼性が高く、公正な判断を下せる人物を選定することが重要です。
通常、弁護士が選任されますが、家庭裁判所が最終的に適任者を選びます。
申立人の方で推薦をすることもできますが、最終的に誰を選任するかは裁判所の判断になります。
2.家庭裁判所への申し立て
不在者財産管理人の選任は、家庭裁判所への申し立てが必要です。
申立てには、行方不明者の氏名、住所、行方不明になった経緯などを詳しく記載し、証拠を提出する必要があります。
3.選任後の監督
不在者財産管理人が選任された後も、その業務内容について家庭裁判所が監督を行います。
定期的に報告書を提出し、財産の管理状況を確認することが求められます。
4.費用の負担
不在者財産管理人の選任の申立てには、一定の費用が発生します。
不在者財産管理人の報酬は、家庭裁判所の判断により、不在者の財産の中から支払われることになりますが、事前に費用負担について確認しておくことが重要です。
【まとめ】
行方不明の相続人がいる場合には、不在者財産管理人の選任しなければ相続手続を進めることができません。
この制度を活用することで、行方不明者の権利を保護し、他方で、行方不明者がいるために手続が頓挫してしまっている他の相続人は相続手続きを円滑に進めることができます。
また、失踪宣告や相続財産清算人との違いを理解し、適切な手続きを選択することが大切です。
これらの手続きを丁寧に案内し、安心して相続手続きを進められるようサポートを提供することが重要です。
弁護士 大石誠
横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階
横浜平和法律事務所
電話:045-663-2294
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