老朽化アパートの相続問題|横浜の弁護士が教える4つの選択肢
- 誠 大石

- 11月4日
- 読了時間: 14分
【老朽化アパートの相続で悩む横浜の方へ】
相続財産の中に、築年数が古く老朽化したアパートが含まれている場合、「このまま相続して大家を続けるべきか」「売却や建て替えも検討すべきか」と悩まれる方は少なくありません。特に横浜のように地価が比較的高く、古いアパートが住宅街の中に点在している地域では、相続人が対応に困るケースが多く見られます。
老朽化したアパートは、修繕費の負担、空室による収益悪化、相続税・固定資産税の問題など、放置しておくほどリスクが大きくなりがちな資産です。一方で、立地や活用方法によっては、適切な判断をすることで資産価値を守りながら収益を生み出すことも可能です。
本記事では、横浜で老朽化アパートを相続した方・これから相続が見込まれる方に向けて、弁護士の視点から「どのようなリスクがあるのか」「相続後に取りうる主な選択肢は何か」をわかりやすく解説します。老朽化アパートの相続でお悩みの方は、最適な判断を行うための整理材料としてお役立てください。
横浜で老朽化アパートを相続する主なリスク・注意点
老朽化したアパートを相続した場合、相続人が直面する問題は多岐にわたります。特に横浜のように「古い住宅街と新しい再開発エリアが混在する地域」では、築古物件の扱いが難しく、判断を誤ると想像以上の負担を背負ってしまう可能性があります。ここでは、相続時に必ず知っておきたい主要なリスクについて詳しく解説します。
修繕費がかさむリスク(横浜の築古物件の特徴)
老朽化アパート相続で最も大きいのが「修繕費の負担」です。外壁・屋根の塗装、防水工事、共用部の電気設備や給排水設備など、築年数が経つほど劣化は避けられません。
横浜エリアでは、昭和〜平成初期に建築された木造アパートが多く、外壁や屋根の大規模修繕には数百万円〜一千万円以上かかることも珍しくありません。さらに、複数の部屋で給湯器やエアコンの交換が同時期に発生すれば、一気に資金繰りが悪化します。
修繕の先送りは建物の劣化を加速させるため、相続人が大家業の経験に乏しい場合、対応が後手に回り、結果的に高額な出費に繋がることが少なくありません。
空室増加による収益性低下(地域需要の影響)
築古アパートはどうしても空室が増えやすい傾向があります。入居者は「新しい」「きれい」「設備が充実している」物件を好むため、古い物件は競争力で劣りがちです。
横浜市内でも、特に以下の地域では空室リスクが顕著です。
- 新築ワンルームが供給過多のエリア
- 最寄り駅から距離がある坂道エリア
- 再開発で新築マンションが増えた地域
空室が増えれば家賃収入が減り、結果として「修繕費が必要なのに収入が足りない」という悪循環に陥ります。
よくあるパターンが、「家賃を下げて募集する」ことですが、それでも入居が決まらない場合はさらに収益性が悪化します。
築古アパートのほうが相続税が高くなる場合がある理由
多くの方が誤解しているのが、
“古いアパートほど相続税が安くなる”
という考え方です。
実際には、
・相続税は市場価格ではなく「相続税評価額」
・賃貸物件の評価減は「賃貸割合(入居率)」で変動する
というルールがあるため、空室の多い築古ほど評価額が高くなるケースがあります。
例)
- 満室アパート → 評価額を最大30%減額
- 半分空室 → 評価減が半分程度(約15%)
つまり、老朽化×空室のコンボにより、「築浅満室アパートより評価額が高い」という逆転現象が起こるのです。
横浜市内の土地は評価額が高いことも多いため、建物の評価減が効かないと負担額が大きくなりがちです。
売却が難しい要因(旧耐震・融資の問題)
老朽化アパートを相続した人の多くが「売りたいのに売れない」という悩みに直面します。
売却が難しい理由は次のとおりです。
・旧耐震基準の場合、安全性の不安から買い手が敬遠する
・木造アパートは法定耐用年数(22年)超えで融資がつかない
・空室が多く、収益性が低いので投資対象として魅力が弱い
・修繕の先送りにより、隠れた不具合が多くなる
さらに「契約不適合責任」が問題になることもあり、売却後に欠陥が判明すると、買主から修繕費を請求されるリスクもあります。
横浜市内での不動産売却はエリア差が大きく、人気の高い駅近でも、築古アパートとなると購入検討者が大幅に減ってしまうのが現実です。
固定資産税負担と“更地にすると税額が上がる落とし穴”
アパートを相続すると、毎年固定資産税と都市計画税が発生します。空室があって収益がゼロでも、税金の支払いは必須です。
さらに注意すべきポイントが、「更地にすると税額が最大6倍になる」という事実です。
アパートが建っていることで適用される「住宅用地の特例」が、建物を取り壊した瞬間に使えなくなり、課税標準が大幅に上昇します。
そのため、「古いから解体しよう」と安易に判断すると、翌年の税金負担が跳ね上がり、資金繰りが苦しくなる“解体の罠”にはまります。
以上のように、老朽化アパートの相続には複数のリスクが重なるため、最初の判断を誤ると将来の負担が想像以上に大きくなることがあります。
老朽化アパートを相続する前に必ずチェックすべき4つのポイント
老朽化アパートの相続では、「引き継ぐべきか」「売却するべきか」「建て替えるべきか」といった判断を下す前に、物件の状況や周辺環境を正確に把握することが不可欠です。この事前チェックを怠ると、相続後に想定外の出費やトラブルが発生し、取り返しのつかない状況に陥ることもあります。
ここでは、相続前後に必ず確認すべき4つの重要ポイントを詳しく解説します。
空き室や収益の状況(レントロールの読み方)
最初に確認すべきなのが、アパートの収益性と空室状況です。
これを把握するための最重要資料が「レントロール(賃貸条件一覧表)」です。
レントロールで確認すべきポイント:
・各部屋の家賃・共益費
・入居状況(満室か、空室がどれくらいあるか)
・退去や契約更新のタイミング
・過去の家賃推移
注意して見る点:
・新しい入居者のほうが家賃が安くないか
→相場下落の兆候
・特定の企業が複数部屋を借りていないか
→一括退去リスク
・空室の「想定家賃」が不自然に高くないか
→現実との乖離
横浜の賃貸市場はエリアによって需要が大きく異なるため、空室の有無は将来の収益性を大きく左右します。
アパートの状態や大規模修繕の時期・金額
つづいて、老朽化の進行具合と今後発生する修繕費用を確認します。
必要書類は以下の2つです:
・長期修繕計画書
・過去の修繕履歴(工事報告書・見積書)
チェックすべき内容:
・本来実施されているべき修繕が先送りされていないか
・共用部の修繕履歴に不自然な空白がないか
・今後5年以内に大規模修繕が必要か
・給湯器・エアコンなど設備交換の周期が迫っていないか
横浜の古い住宅は潮風の影響で外壁や鉄部の劣化が早いケースもあり、修繕費は物件によって大きく異なります。
ローンの残高(団信加入の有無は超重要)
相続財産には「プラスの財産」だけでなく「借金」も含まれます。
老朽化アパートにローン残高がある場合、相続人が返済を引き継ぐことになります。
確認すべき内容:
・ローン残高はいくらか
・返済期間はあと何年か
・金利は固定か変動か
・滞納や遅延の履歴がないか
最重要ポイント:
契約者が亡くなっていれば団体信用生命保険(団信)が適用される可能性あり
団信が適用されれば、残りのローンは全額完済され、アパートは負債ゼロの収益物件に生まれ変わります。
逆に、団信未加入だと相続後に毎月の返済負担が発生し、経営判断に大きく影響します。
団信の請求期限や条件には時効があるため、相続後すぐに確認することが不可欠です。
同じ地域の賃貸需要
老朽化アパートでも「立地が良い」場合は活路があります。
横浜はエリアによって賃貸需要の差が大きいため、需要調査は極めて重要です。
調べる方法:
1. インターネットで相場を調査
・SUUMO、HOME’Sで同条件の物件を検索
・家賃相場や空室期間、設備傾向を確認
2. 自治体データを確認
・横浜市の人口動態
・再開発エリア情報
・新駅・商業施設の計画など
3. 現地を歩く
・坂が多い地域は敬遠されやすい
・駅からの導線や街の雰囲気
・買い物しやすさ・生活利便性
4. 地元不動産会社にヒアリング
・どんな層が部屋を探しているか
・人気のある間取りや設備
・競合物件の強み・弱み
これらの情報を総合的に判断することで、
「アパート経営を続けるべきか」
「売却したほうが良いか」
といった判断材料が揃います。
老朽化アパートを相続した後の4つの選択肢
老朽化したアパートを相続した後、相続人が取りうる選択肢は大きく4つあります。
どれを選ぶべきかは、アパートの状態・立地・資金状況・相続人自身のライフスタイルなどによって大きく異なります。ここでは、それぞれの選択肢のメリットとデメリットを丁寧に整理し、ご自身に合った判断ができるように解説します。
【① アパート経営を引き継ぐ】
故人が行っていたアパート経営をそのまま受け継ぎ、大家として運営を続ける選択肢です。
<メリット>
・毎月安定した家賃収入が期待できる
・親から受け継いだ資産をそのまま維持できる
・減価償却費や固定資産税等を経費計上でき、節税になることも
・賃貸需要がある地域では長期的な収益が見込める
<デメリット>
・修繕費、空室、トラブル対応など全責任を負う
・初期費用(修繕や設備交換)で資金が必要になる
・家賃滞納、クレーム対応、入退去管理など手間がかかる
・不動産管理会社に委託すると管理費用が発生する
横浜の場合、駅近など人気エリアで入居率が高い物件なら経営継続は有力な選択肢です。一方、坂の多い地域や旧耐震の物件は空室リスクが大きく、慎重な判断が必要です。
【② アパートを建て替える・リノベーションする】
老朽化が進んでいる場合、投資をして物件価値を向上させる戦略です。「建て替え」と「リノベーション」では必要な費用・効果が異なります。
【リノベーション(大規模改修)】
<メリット>
・建て替えより費用が安く、工期が短い
・設備や内装をアップグレードすることで家賃UPを狙える
・築古でも収益性の改善が期待できる
<デメリット>
・構造部分は古いままで根本的な老朽化は解決しない
・見えない劣化をカバーできず、別の修繕が発生する可能性
・築年数による融資や評価の改善は限定的
軽めの劣化であればリノベで十分効果がありますが、横浜の海沿いエリアでは塩害による劣化が進んでいるケースがあり、注意が必要です。
【建て替え】
<メリット>
・最新の設備・デザインで競争力の高い物件が完成
・家賃設定を高くでき、満室を狙いやすい
・長期的に安定した収益が見込める
<デメリット>
・解体費+建築費で非常に高額な資金が必要
・入居者への立ち退き交渉が必要になる
・完成まで収入がゼロになる期間が発生
・固定資産税が一時的に上がる可能性
横浜では、駅近の土地価値が高いエリアでは「建て替えに強いメリット」があります。
【③ アパートを取り壊し、別の用途で活用する】
建物の価値がほとんどない場合、「建物は負債・土地は資産」と割り切って土地活用に切り替える選択肢です。
主な土地活用方法:
・駐車場経営(コインパーキングなど)
・更地として売却
・戸建て建築
・企業への土地貸し(定期借地)
<メリット>
・アパートの管理負担がゼロになる
・更地なら買い手が見つかりやすいことも
<デメリット>
・アパート解体費が数百万円かかる
・住宅用地の特例が消えるため固定資産税が大幅に上昇
・駐車場経営は収益性が低い傾向あり
横浜は車社会の地域もあるため、駐車場収益が見込めるエリアかどうかの判断が重要です。
【④ アパートを売却する(仲介 or 買取)】
売却は、大家としての業務やリスクから完全に解放される選択肢です。
<メリット>
・修繕・空室・税金の負担から解放される
・現金化でき、複数の相続人への分割が容易
・買取なら即現金化が可能
<デメリット>
・築古は買い手がつきにくい
・希望価格では売れない可能性が高い
・売却後に欠陥が発覚すると責任を問われることがある(仲介の場合)
買取は仲介より価格は低いですが、
・スピード重視
・契約不適合責任が免除される
という大きなメリットがあります。
横浜では、再開発エリア周辺の土地は需要が高く、建物が古くても高値で売れる場合があります。
老朽化アパートの相続は誰に相談すればよい?
老朽化したアパートの相続は、「不動産」「相続税」「法律」「建築・修繕」など、複数の専門分野が複雑に絡み合う問題です。相続人が一人で判断しようとすると、誤った判断により損失が発生したり、後で取り返しのつかないトラブルに発展する可能性があります。
ここでは、老朽化アパートの相続で直面する悩みごとに、「誰に相談すべきか」をわかりやすく整理します。
【不動産会社に相談すべきケース】
次のような悩みがある場合は、まず不動産会社に相談するとよいでしょう。
・「このアパート、そもそも価値があるの?」
・「売れるのか、いくらで売れるのか知りたい」
・「空室が多くて収益が悪い。管理を任せたい」
不動産会社ができること:
・物件の査定(売却価格の目安)
・賃貸管理の代行
・入居募集の戦略提案
・売却仲介・買取相談
横浜ではエリアごとに賃貸需要や売却相場が大きく異なるため、地域に詳しい不動産会社に相談するのがポイントです。
【税理士に相談すべきケース】
次のような悩みの場合、税理士が適切です。
・「相続税はいくらかかる?」
・「アパート経営を引き継いだ場合の確定申告は?」
・「節税しながら活用する方法を知りたい」
税理士ができること:
・相続税の試算
・相続税申告(相続開始から10ヶ月以内)
・不動産所得の確定申告
・相続税と所得税を踏まえた節税アドバイス
老朽化アパートの場合、空室によって評価額が変動しやすいため、専門家による正確な試算が重要です。
【司法書士に相談すべきケース】
次のような内容については司法書士が専門家です。
・「相続登記(名義変更)をしたい」
・「相続人間で話し合った内容を正式な書類にしたい」
司法書士ができること:
・アパートの相続登記(2024年4月から義務化)
・遺産分割協議書の作成サポート
老朽化アパートは、名義が不明確なまま放置すると売却も管理も難しくなるため、早めに手続きを進めることが重要です。
【弁護士に相談すべきケース(横浜の物件特有の注意点)】
弁護士が必要なケースは、主に「争いが絡む」場合です。
・相続人同士で意見がまとまらない
・修繕費や売却方針でトラブルが起きている
・入居者とのトラブル(滞納・迷惑行為)
・古い建物の瑕疵で法的責任を問われる可能性がある
弁護士ができること:
・相続トラブルの法律的解決
・入居者との法的交渉・トラブル解決
・売却時の契約不適合責任への対応
・相続放棄・限定承認のアドバイス
とくに横浜では、
・旧耐震基準の木造アパート
・坂の多い地域での価値判断
・海沿いエリアの劣化
など地域特有の問題が多いため、物件状況を踏まえた法律的アドバイスが必要になることがあります。
さいごに|老朽化アパートの相続は複雑な問題が絡み合う!専門家に相談を
老朽化したアパートの相続は、「建物の老朽化」「収益性の低下」「税金の負担」「売却の難しさ」など、さまざまなリスクが複雑に絡み合う問題です。相続した瞬間に大きな責任が発生し、対策を誤れば数百万円単位の損失につながる可能性もあります。
本記事では、老朽化アパートを相続する際に直面する主なリスクと、相続前後に確認すべきポイント、さらに考えられる4つの選択肢について詳しく解説しました。しかし、どの選択肢が最適かは、アパートの立地や建物状況、相続人の資金力、そして将来の計画によって大きく異なります。
重要なのは「正しい判断をするためには専門家の力が必要である」ということです。 レントロールや修繕計画書を確認し、まずは現状を正しく把握したうえで、不動産会社・税理士・司法書士・弁護士など、適切な専門家に相談することが、最善の解決への近道です。
老朽化アパートを相続して不安を感じている方は、一人で抱え込む必要はありません。状況に応じたプロのアドバイスを受けながら、後悔のない最適な判断を進めていきましょう。
以上、老朽化アパートの相続問題|横浜の弁護士が教える4つの選択肢でした!
弁護士 大石誠
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