神奈川県の信託トラブル判例に学ぶ|遺留分と司法書士契約の注意点を弁護士が解説
- 誠 大石
- 4 日前
- 読了時間: 10分
民事信託の普及とトラブルの増加背景(神奈川県の事例を交えて)
近年、「民事信託(家族信託)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
特に高齢化が進む日本では、自分の財産を元気なうちに信頼できる家族に託し、将来の管理や相続をスムーズに進めたいというニーズが高まっています。神奈川県でも、こうした信託制度を利用する方が増えており、相続対策の一つとして注目されています。
しかし、制度の仕組みを十分に理解しないまま契約してしまったり、専門家との連携がうまくいかなかったことで、かえってトラブルになってしまうケースも少なくありません。特に、「遺留分を侵害してしまった」「信託契約を結んだが思っていたように運用できない」といったご相談をいただくことが増えています。
今回は、実際に信託に関する2つの裁判例をもとに、どういった点に注意すべきなのかをわかりやすくご紹介します。
これから信託を検討している方や、すでに信託契約を結ばれている方にとって、トラブルを未然に防ぐためのヒントになれば幸いです。
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問題となった信託設定の裁判例とは
民事信託は非常に柔軟な制度ですが、その自由度ゆえに、法律の趣旨に反するような設計がなされるリスクもあります。
ここでは、実際に裁判となった「遺留分制度を潜脱する意図がある信託」が無効と判断された判例をご紹介します。
これは、相続に関わる方すべてにとって、信託設計の際に必ず意識しておきたい重要なポイントを含んでいます。
【裁判例1】遺留分制度を潜脱する信託設定の無効
ある高齢者が自分の所有する不動産を信託財産として特定の相続人に承継させるような形の信託契約を結びました。
その不動産は、収益が発生するものではなく、他の相続人が経済的利益を得られないような内容でした。
遺言とは違い、信託契約は比較的自由に内容を決められるため、一見すると問題がないように見えます。
しかし、他の相続人から「これは遺留分を侵害している」との主張がなされ、裁判となりました。
裁判所は、こうした「経済的利益の分配が想定されない不動産の信託設定」は、遺留分制度を潜脱する意図が明確であり、公序良俗に反して無効であると判断しました。
また、もう一つ重要なポイントとして、この裁判では「遺留分減殺(現在では遺留分侵害額請求)を行う場合、対象とすべきは形式的な所有権ではなく受益権である」との見解が示されました。
つまり、信託財産の名義が信託名義に変わっていても、実質的な利益を得ている人に対して請求できる、ということです。
これは、相続対策として信託を活用する際に、「信託だから遺留分の対象外になる」と安易に考えてしまうと、大きな落とし穴になるということを示しています。
弁護士の視点で見るこの判例のポイント
この判例から学べる大きな教訓は、「信託を使えば相続のルールを自由に変えられる」という思い込みには危険がある、ということです。
たとえ法的に信託契約が成立していたとしても、その目的や内容が遺留分制度の趣旨を明らかに損なっていると見なされれば、無効とされる可能性があるのです。
また、実務的には、「誰にどれだけの受益権(利益)を与えるのか」を丁寧に設計し、説明責任も果たしておくことが非常に重要になります。信託契約は相続人間のバランスや、相続後のトラブル回避に役立つものですが、その使い方を誤ると、かえって紛争の火種になってしまうこともあるのです。
神奈川県内でも、不動産信託を活用して相続対策を考える方は多くいらっしゃいますが、この判例を参考に、「形式より実質」を意識した信託設計が求められる時代になってきていると感じます。
司法書士との信託契約トラブルに関する裁判例
民事信託を利用する際、多くの方が司法書士や行政書士などの専門家に手続きを依頼します。
ところが、その連携や説明が十分でないと、契約者にとって不利益な結果を招くこともあります。
以下でご紹介するのは、実際に高齢者と司法書士との間で起きたトラブルに関する裁判例です。
【裁判例2】信託利用に必要な事務処理を巡る責任
このケースでは、高齢の方が将来の財産管理に備えて、民事信託の利用を考えていました。そして、その信託契約の実現に向けて、ある司法書士と「必要な事務処理を依頼する」内容の委任契約を結びました。
ところが、信託契約を結んだにもかかわらず、信託に必要な口座(いわゆる「信託口口座」)が開設できなかったり、信託内融資が受けられなかったりと、実際の運用がうまくいかず、依頼者は損害を被ったと主張しました。
このトラブルについて、依頼者は2つの法的主張をしました:
債務不履行(契約に定めた義務を果たさなかった)
不法行為(説明義務違反などにより損害を与えた)
裁判所の判断は次のようになりました。
まず、債務不履行については、「司法書士は契約上の義務をすべて果たしていた」として、請求は認められませんでした。つまり、契約書に書かれていた業務内容については、形式的にはちゃんとこなしていたという評価です。
しかし一方で、不法行為に関しては一部が認められました。というのも、司法書士は「信託口口座が開設できない可能性があること」や「金融機関によって対応が異なること」といったリスクをきちんと説明する義務があったとされたからです。この説明があれば、依頼者は契約自体を結ばなかった可能性が高く、結果的に損害を防げたと考えられました。
弁護士の立場から考える契約締結前の注意点
この判例から得られる大切な教訓は、「信託契約そのものの内容だけでなく、周辺手続きや運用面までしっかり確認しておくことが重要」という点です。
特に金融機関の対応は非常に多様で、同じ内容の信託契約でも、ある銀行では受け付けてもらえず、別の銀行なら可能ということも珍しくありません。
そのため、民事信託を検討する際には、契約書の作成だけでなく、
信託口口座の開設が実現可能か
信託財産の運用に問題がないか
関係者(受託者・受益者など)の合意が得られているか
といった点も含めて、総合的に設計・判断することが求められます。
また、契約を依頼する相手(司法書士・行政書士・弁護士など)が、どの範囲まで説明・対応してくれるのかを、事前に明確にしておくこともトラブル防止につながります。
神奈川県でも、信託契約に関する相談は年々増えており、特に高齢者が「子どもや親族に任せたいけど、制度が難しくて不安」と感じる場面が多くなっています。そうしたときは、法律的なリスクも含めてきちんと説明してくれる専門家に相談することをおすすめします。
神奈川県で信託制度を活用する際の注意点
信託は、財産を守るための柔軟な仕組みとして注目を集めていますが、すべてのケースに万能というわけではありません。
信託が効果を発揮する場面と、むしろ慎重になるべき場面とを見極めることが、トラブルを防ぐ第一歩です。
神奈川県のように都市部と郊外が混在する地域では、家族構成や資産内容によって向き不向きが分かれる傾向があります。
信託が適しているケースとそうでないケース
信託が有効に機能するのは、たとえば以下のようなケースです:
認知症対策として財産管理の準備をしておきたい場合
障がいを持つ家族の生活を長期にわたって支援したい場合
不動産や賃貸物件を、複数の相続人に分けるのが難しい場合
このように、特定の目的が明確であり、家族内での合意が得られている場合には、信託は非常に強力なツールになります。
一方で、「相続人間に争いがある」「不動産しか財産がない」「金融機関との協力が得られにくい」場合などは、信託を導入しても期待した効果が得られない可能性があります。また、信託の運営には一定の事務負担もあるため、受託者(財産を預かる人)になる方の負担や理解度も重要です。
横浜・川崎など周辺地域でも増える活用事例と課題
神奈川県では、特に横浜市・川崎市といった都市部を中心に、信託を活用した相続対策の相談が増加しています。都市部では複数の不動産を所有している家庭も多く、将来の管理や承継に関して不安を抱える方が少なくありません。
実際に、横浜市内では「二世帯住宅の共有名義の整理」や「高齢の親名義の賃貸物件を子が管理するための信託設計」など、実務的な信託の活用事例も見られます。
ただし、金融機関の対応には地域差や行員の理解度によるバラつきがあるため、信託の運用を考える際には、事前に協力を得られるかどうかの確認が必須です。
また、神奈川県内でも郊外エリアになると、「信託って何?」という反応を示す家族も多いため、家族間での話し合いや情報共有も不可欠です。制度の仕組みやリスクをしっかり伝えることが、結果的にスムーズな信託運営につながります。
まとめと結論(神奈川県の信託トラブルから学べること)
今回ご紹介した2つの裁判例から見えてくるのは、信託制度は便利である一方、正しく使わなければかえってトラブルの原因にもなり得るという点です。
ひとつ目の裁判例では、「遺留分制度を無視した信託設計」が公序良俗に反するとされ、無効と判断されました。つまり、信託を利用しても、相続人の最低限の取り分である遺留分を完全に無視することはできない、という重要なメッセージです。
ふたつ目の裁判例では、専門家が行うべき説明やリスク提示が不十分だったために、依頼者が損害を被ったとして一部の損害賠償が認められました。これは、専門家に依頼したとしても、契約内容やリスクをしっかり確認しておかないと、納得のいく結果にならない可能性があることを示しています。
神奈川県は、都市部と住宅地が混在する地域であり、相続・財産管理にまつわる事情も多様です。そんな中で民事信託を活用する場合は、法的な知識と実務的な感覚の両方が求められます。形式だけでなく、家族の将来や関係性、財産の種類などを総合的に見て設計することが何より大切です。
信託はうまく使えば、将来の不安を減らし、相続人同士の紛争も予防できる非常に心強い制度です。だからこそ、制度の理解と信頼できるサポートが欠かせません。
弁護士に相談するメリットとお問い合わせ(神奈川県対応)
信託を活用した相続対策は、法律・税務・実務の知識が複雑に絡み合う分野です。そのため、制度の仕組みだけでなく、「自分の家族にとって本当に信託が合っているのか?」という観点から、中立的な立場で判断してくれる専門家の存在が不可欠です。
弁護士に相談する大きなメリットのひとつは、信託契約の法的な有効性や、遺留分侵害のリスクを事前に検討できることです。たとえば今回ご紹介した判例のように、内容によっては信託契約が無効になってしまうケースもあります。そうしたリスクを踏まえた上で、他の選択肢(遺言・贈与・遺産分割協議など)との比較ができるのは、弁護士ならではの視点です。
また、司法書士や税理士とも連携しながら、ワンストップでスムーズな手続きを支援できる体制を整えている弁護士も増えています。神奈川県内であれば、横浜・川崎・相模原・藤沢など各エリアに対応しており、ご自宅から近い場所での相談や、オンライン面談にも柔軟に対応しています。
「うちの家族には信託が合うのかな?」「信託契約を結んだけど、この内容で大丈夫?」「相続人同士で揉めそうだけど、どうまとめればいい?」
そんな疑問や不安をお持ちの方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。初回のご相談を無料で受け付けている事務所も多くありますので、まずは気軽に話をしてみることが、安心への第一歩です。
神奈川県の信託トラブル判例に学ぶ|遺留分と司法書士契約の注意点を弁護士が解説でした!
弁護士 大石誠
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