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相続案件のヒアリング手法|弁護士が神奈川県で調停進行モデルとは

  • 執筆者の写真: 誠 大石
    誠 大石
  • 8月5日
  • 読了時間: 12分

更新日:11月22日

はじめに ~相続案件の複雑性とヒアリングの重要性~

相続案件は、相続人間の利害が複雑に絡み合うケースが多く、手続きの進行が滞る原因になりがちです。特に、相続財産に不動産が含まれる場合や、相続人が多数にわたる場合には、争点の整理そのものが困難を極めます。


こうした背景の中で、東京家庭裁判所が提唱した「段階的進行モデル」は、調停を効率的かつ体系的に進めるための有力な手法として注目されています。このモデルは、調停を5つの明確な段階に分けて進行させることで、関係者の合意形成を段階的に促す仕組みです。


実務においては、弁護士がこのモデルをヒアリング技法に応用することで、依頼者の状況把握や課題の可視化が大幅に効率化されます。特に神奈川県では、都市部と郊外の相続事情が混在し、複雑な財産構成や家族構成に対応するための高度なヒアリング力が求められます。

本記事では、相続案件に携わる専門家、特に士業(行政書士、司法書士、税理士)、不動産業、保険業、相続コンサルタントの皆さまに向けて、神奈川県の弁護士が実践する段階的進行モデルをベースに、専門家が現場で活用できるヒアリング手法とその実務上のポイントを詳しく解説します。


遺産分割調停の進み方と分割方法の類型
遺産分割調停の進み方と分割方法の類型

神奈川県での遺産分割調停における課題と現状

神奈川県は、横浜・川崎といった都市部から、湘南エリアや県央・県西部の郊外地域まで、人口構成・地価・不動産の種類が多様な地域です。この地域特性が、遺産分割調停に独自の課題をもたらしています。


まず都市部では、マンションや高額な市街地不動産が相続財産に含まれるケースが多く、資産の評価や分割方法において相続人間の対立が生じやすい傾向があります。一方、郊外エリアでは、先祖代々の土地や空き家が問題となることが多く、財産価値の算定と処分方法が大きな争点になることがあります。


また、神奈川県は首都圏への通勤圏であるため、相続人が県外に分散して居住しているケースも少なくありません。そのため、遺産分割調停の準備段階から、関係者間の情報共有や連絡調整に時間を要し、調停申立て前の段階で話し合いが頓挫することもあります。


さらに、地域によっては高齢化が進んでおり、被相続人のみならず相続人の一部も高齢者であるケースが増加しています。認知症などの判断能力に関する問題が生じた場合には、成年後見制度の利用や鑑定が必要となるなど、調停手続きの複雑化を招いています。


こうした多様で複雑な状況下では、弁護士が相談時から「論点の可視化」「手続きの見通しの提示」「予測される争点の把握」を適切に行う必要があります。そのためには、ヒアリング段階から戦略的に情報を整理し、依頼者の理解を助けるフレームワークが不可欠です。


次章では、こうした課題に対応するために神奈川県の弁護士が実務で活用している「段階的進行モデル」について、基本的な構造と導入の効果を解説します。




弁護士が活用する「段階的進行モデル」とは

「段階的進行モデル」は、東京家庭裁判所が導入し、現在では全国の家庭裁判所で広く運用されている遺産分割調停の進行手法です。

このモデルの最大の特徴は、調停を以下の5つの段階に分けて進める点にあります。


1. 相続人の範囲の確定
2. 遺産の範囲の確定
3. 遺産の評価の確定
4. 特別受益・寄与分の確定
5. 遺産の分割方法の確定

各段階ごとに争点を明確にし、必要な資料や主張を整理した上で、次の段階へ進むという順序立てた運用が行われます。原則として、後戻りせず段階的に進行することで、調停全体の見通しを立てやすくし、争点がいつまでも拡散することを防ぐ効果があります。


このモデルは調停委員や裁判所側にとってだけでなく、弁護士にとっても非常に有用です。なぜなら、各段階ごとに必要なヒアリング項目が自然と定まり、相談者とのコミュニケーションが明確かつ効率的になるからです。


例えば、第一段階では「誰が相続人か」の確定が目的となるため、「戸籍はすべて取得されましたか?」「認知や養子縁組の有無は?」といった確認からスタートできます。次に進めば「相続財産には何が含まれますか?」「不動産の登記は?」など、論点を一つずつ丁寧に積み上げていくことができます。


この進行モデルをヒアリング技法として活用することで、弁護士は依頼者に対して「今、何をすべきか」「次に何が必要か」を具体的に示すことができ、依頼者の不安や混乱を軽減する効果もあります。加えて、調停申立書や財産目録の作成といった手続的準備も、段階に沿って効率的に整えることが可能となります。


神奈川県のように事案の多様性が高い地域では、こうしたフレームワークを用いることが、調停全体の戦略的進行を図る上でも非常に重要となります。特に、相続人間の感情的対立が表面化する前に争点を構造化できる点は、実務上の大きな利点と言えるでしょう。


段階的進行モデルを用いたヒアリング技法の実務活用

弁護士が相続相談を受ける際、相談者が直面している状況は非常に多岐にわたります。相続人の関係性、財産の種類、争点の有無、そして感情的な対立の深度など、同じ遺産分割でもその内容はケースバイケースです。こうした多様な相談に対し、効率的かつ的確に情報を引き出すには、段階的進行モデルをベースにしたヒアリング技法が非常に有効です。


まず、ヒアリングの冒頭では「相続人の範囲の確定」から入ります。

ここでは戸籍の収集状況や、家系図の有無、疎遠な親族の存在などを確認します。この段階でのヒアリングポイントは、争いがないか、認知・養子縁組の有無、相続放棄がなされているかなど、相続人の構成に関わる法的事実の確認です。これにより、初期段階で法的リスクを可視化できます。


次に「遺産の範囲の確定」では、財産の種類と所在、名義の確認が中心になります。

銀行口座、不動産、株式、未上場会社の持分、車両、骨董品など、調査の対象は多岐にわたります。この段階で弁護士は、依頼者に「目録の作成」を依頼しつつ、漏れを防ぐ質問リストを活用するのが実務的です。相続財産の存在を相談者自身が十分に把握していない場合もあるため、網羅的な聞き取りが求められます。

また、相続税法上の相続財産(みなし相続財産を含む)と、民法上の相続財産との範囲が異なる点も、この段階で登場する議論となりまうs。


「遺産の評価の確定」段階では、不動産鑑定や金融資産の時価評価など、専門家の関与が必要になることもあります。

ヒアリングでは「固定資産評価額はどの程度か」「最近売却された同種物件はあるか」など、財産の種類に応じた具体的な質問が有効です。評価額が争点となり得る場合には、この段階で鑑定人の選定に関する合意形成を促すアドバイスも求められます。


続いて「特別受益・寄与分の確定」では、家族間の感情的な要素も絡んでくるため、弁護士のコミュニケーション力が問われます。

たとえば、「生前に住宅取得の援助を受けた方はいらっしゃいますか?」「長期間にわたり介護をしていた方はいませんか?」といった質問は、争点化しやすい論点を浮き彫りにするだけでなく、相談者の中にある無自覚な主張・不満の掘り起こしにもつながります。


最後の「遺産の分割方法の確定」では、現物分割・換価分割・代償分割といった手法の選択肢を提示しつつ、現実的な解決案の模索に入ります。

ここでは、依頼者の希望と現実のバランスを取りながら、実行可能なシナリオを複数提案する姿勢が求められます。


段階的進行モデルに基づいたヒアリングは、話の脱線を防ぎ、網羅性と効率性を担保しながらも、依頼者との信頼関係を築く上でも効果的です。また、各段階で必要となる資料や準備事項を明示することで、相談者が「次に何をすべきか」を明確に理解できるようになります。


このように、弁護士が段階的進行モデルをヒアリング技法に組み込むことは、単なる聴取ではなく、調停全体の成功を左右する重要な戦略行動となります。


神奈川県での実例紹介:実務でのモデル活用事例

実際に神奈川県内で段階的進行モデルを活用した遺産分割調停の事例を紹介します。

このケースは、横浜市内に居住していた被相続人の遺産をめぐる調停で、都市部特有の不動産評価と複数の相続人による主張の交錯が課題となりました。


被相続人は、横浜市内の高額マンションといくつかの金融資産を保有していました。相続人は3名で、うち1名が同居、他の2名は県外に居住しており、相続開始当初から「自宅を誰が取得するか」が争点となっていました。


このような状況に対し、当職は段階的進行モデルに基づき、初回の相談時から以下のステップを明確に提示しました。


まず「相続人の確定」においては、戸籍の確認と相続放棄の有無を徹底的にチェック。次に「遺産の範囲」では、被相続人の通帳、不動産登記簿謄本、証券会社の取引履歴を網羅的に収集しました。これにより、相談者の中でも曖昧だった財産状況を明確化することができました。


「遺産の評価」では、不動産については近隣の売買実例や路線価を基に評価を行い、必要に応じて簡易鑑定を実施しました。評価額に基づく客観的な判断材料を揃えたことで、相続人間の不信感をやや軽減することができました。


次の「特別受益・寄与分」では、同居していた相続人から「介護への貢献」が主張されました。当職は、介護期間や具体的な負担内容を確認し、実際の寄与内容をヒアリングに基づいて客観的に整理しました。最終的には他の相続人も一定の寄与分を認め、分割案の土台が形成されました。


「分割方法」については、最終的にマンションを同居していた相続人が取得し、他の2名に代償金を支払うという内容で合意が形成されました。この合意形成までの過程は、段階的に争点を絞り込み、段階を飛ばすことなく進行したことにより、調停申立て前に話し合いがまとまり、調停を経ずに公正証書遺産分割協議書としてまとめることができました。


この事例からも分かるように、段階的進行モデルをヒアリング段階から活用することで、依頼者自身が問題点を整理しやすくなり、弁護士としても合理的に解決策を提示することが可能になります。特に神奈川県のように相続財産が高額かつ複雑な場合、このモデルによる進行は極めて有効です。


段階的進行モデルの限界と応用の工夫

段階的進行モデルは、遺産分割調停を効率的かつ論理的に進行させるうえで非常に優れたフレームワークですが、すべての事案にそのまま適用できるわけではありません。特に感情的対立が深刻な事案や、相続人同士の信頼関係が著しく損なわれているケースでは、モデル通りに段階を追っても合意形成に至らないことがあります。


たとえば、相続人の一部が「特別受益」を強く主張し、それに対し他の相続人が「そもそも相続人として認めたくない」と反発するようなケースでは、最初の段階である「相続人の確定」すらスムーズに進まないことがあります。また、相続財産の評価についても、感情的対立が絡むと客観的な評価方法が受け入れられず、モデルの論理性が空回りする場合もあります。


このような限界を踏まえ、実務では柔軟な運用が求められます。たとえば、弁護士側で独自のヒアリングテンプレートを作成し、「段階的進行モデル」をベースにしながらも、争点や状況に応じて順序を入れ替えたり、優先順位をつけて対応することが現実的です。


また、調停を前提としない協議段階では、すべての情報を一度に開示しない方が交渉上有利に働くこともあります。その場合、段階的進行モデルは「内部的な整理ツール」として使い、実際の対外的コミュニケーションは慎重に構築する必要があります。


さらに、感情的要因が強い事案では、心理的サポートを重視した傾聴姿勢や、第三者専門家(心理士や調停人OBなど)との連携も有効です。単にモデルに従うだけでなく、依頼者の心理的負担や背景事情を理解したうえで、モデルを土台にした柔軟な応用力が、弁護士には求められます。


まとめと今後の実務への応用(神奈川県の専門家向けに)

遺産分割調停における段階的進行モデルは、調停の効率化だけでなく、弁護士をはじめとする専門家が相談者とのヒアリングを構造化する上でも非常に有用なツールです。特に多様な相続事情が混在する神奈川県では、このモデルに基づく対応が、依頼者との信頼構築や紛争の早期解決につながる場面が多く見られます。


本記事で紹介したように、モデルの正確な運用だけでなく、事案の性質や相談者の心理的状況に応じた柔軟な応用が不可欠です。ヒアリング段階から戦略的に情報を収集・整理し、依頼者にとって分かりやすく、実務に即した対応を行うことで、専門家としての価値をより一層高めることができるでしょう。


今後、神奈川県内における相続・遺産分割案件への対応においても、本モデルを実務の中核に据えたアプローチを検討してみてはいかがでしょうか。


段階的進行モデルは万能ではありませんが、的確な状況判断と応用によって、実務上の強力な武器となるのは間違いありません。


弁護士に相談することで得られる実務支援と神奈川県対応体制

遺産分割調停をスムーズに進めるためには、法的な知識だけでなく、全体の流れを見通した戦略的な対応が求められます。段階的進行モデルに基づいたヒアリングと資料整理は、まさにその土台となる重要なプロセスです。


弁護士に相談することで、相続人間の利害調整や資料の精査、必要に応じた専門家(不動産鑑定士、税理士など)との連携を一元的に行うことができ、調停が必要となった場合でも、万全の準備を整えた上で臨むことが可能になります。


当事務所では、神奈川県全域(横浜・川崎・相模原・藤沢・小田原など)を対象に、相続・遺産分割に関するご相談を承っております。地元の実情に即した対応を心がけており、初回相談から調停対応、遺産分割協議書の作成まで、ワンストップで支援いたします。


複雑な相続問題を抱える前に、まずはお気軽にご相談ください。実務に強い弁護士が、的確な対応をご提案いたします。


以上、「相続案件のヒアリング手法|弁護士が神奈川県で調停進行モデルとは」でした!


弁護士 大石誠

横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階 横浜平和法律事務所

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電話:〔045-663-2294


参考

・名古屋家庭裁判所の説明資料

注)こちらでは6つの段階に分けています。

1. 相続人の範囲の確定
2.遺言の有無、遺産分割協議の有無の確認
3. 遺産の範囲の確定
4. 遺産の評価の確定
5. 特別受益・寄与分の確定
6. 遺産の分割方法の確定

・東京三弁護士会の説明資料


参考

相続案件のヒアリング手法|弁護士が神奈川県で調停進行モデルとは

 
 
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