top of page

横浜の弁護士が答える!同居していた相続人に家賃請求はできるのか?

  • 執筆者の写真: 誠 大石
    誠 大石
  • 8月14日
  • 読了時間: 10分

横浜で増える「相続と同居」トラブルの背景

近年、横浜をはじめとする都市部では、高齢の親と子が同居する家庭が多く見られます。そして、親が亡くなった後、その同居していた子が遺産である家に住み続けていることから、他の相続人との間でトラブルが生じるケースも少なくありません。

「同居していたのだから、そのまま住んでいても問題ないはず」と考える人もいれば、「遺産は共有財産なのだから、家賃を払うべきではないか」と主張する相続人もいます。

このような対立が起こる背景には、相続や不動産の法律に関する知識不足があります。とりわけ、「同居していた相続人に家賃を請求できるのか?」という問いは、感情と権利が交差する非常にデリケートな問題です。

本記事では、横浜の弁護士として、同居していた相続人に対する家賃請求が法的に可能かどうかを、判例や法律をもとにわかりやすく解説していきます。


同居していた相続人に家賃を請求できるのか?

親と同居していた相続人が、親の死後もその家に住み続けている場合、他の相続人が「家賃を支払ってほしい」と主張することがあります。一見すると、相続人全員の共有財産を一人だけが使っているのだから、家賃を支払うべきだと考えられがちです。しかし、法的にはそう単純ではありません。


相続開始前からの同居と使用貸借の考え方

相続前に、親(被相続人)の許可を得て一緒に暮らしていた場合、その同居は「無償で住むことを認められていた」状態です。

このような状況に対し、最高裁判所は平成8年12月17日に、共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは,特段の事情のない限り,被相続人と右の相続人との間において,相続開始時を始期とし,遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認する、と判断しています。

つまり、法的には「同居していた相続人が無償で住み続けていることは、当然に許されたこと」と見なされるのです。したがって、この期間中に家賃を請求する法的根拠は原則として存在しません。


判決の原文は以下のとおりです。

共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。
けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。

横浜の弁護士が解説する最高裁判例のポイント

この判例が重要なのは、「特段の事情がない限り」という条件がついている点です。

この判例は、居住用として利用可能な建物について判断しており、「土地」や「非居住用建物」について直接言及しているものではありません。

同居している相続人が被相続人の許諾を得ないで遺産である建物に同居していた場合も言及していません。

さらに、よくある誤解として、対象となる建物が遺産共有の状態にあることを前提としていますので、建物が相続人や第三者に特定遺贈された場合や、相続させる旨の遺言で相続した場合にも言及はしていません。

このように、感情的な衝突が起こりやすい問題であるからこそ、法律の原則と判例を正しく理解することが重要です。


使用貸借契約が成立するケースとは

相続において「使用貸借契約が成立していた」と判断されるかどうかは、その後の家賃請求の可否に直結する重要なポイントです。使用貸借とは、ある人が他人に物を無償で使用させる契約のことをいいます。親族間では書面を交わさず、口頭での合意で住まわせるケースが多いため、実際に契約があったかどうかが問題になります。


被相続人の許諾と黙示の契約の重要性

先ほど紹介した最高裁判例では、被相続人(親)が生前に「同居を許していた」事実がある場合には、たとえ契約書などがなくても、「黙示の使用貸借契約」があったと推定されるとされました。つまり、親が暗黙のうちに無償で住むことを認めていたのであれば、形式的な契約はなくとも法的に有効な使用貸借契約が成立していたとみなされるのです。

この黙示の契約が成立していると認められれば、相続人がその建物に住み続ける法的権利があることになり、他の相続人からの家賃請求は原則として認められません。


「特段の事情」がある場合の例外とは?

もっとも、「特段の事情」がある場合には、この推定は覆されることがあります。たとえば、被相続人が生前に「死後は速やかに家を明け渡すように」と明確に伝えていた場合や、遺言書で他の相続人に建物を相続させる旨を記載していた場合などです。

また、同居していた相続人が他の相続人の意向を無視して家を占拠し続けているような状況では、「正当な使用ではない」と判断される可能性があります。このような場合には、家賃相当額の請求が認められることもあり得ます。

横浜で相続のご相談を受けていると、「親が黙って住まわせていただけ」「自分の善意で介護していた」という方が多く見受けられますが、法的にはその経緯が非常に重視されるため、証拠や事実関係の整理が不可欠です。


家賃請求が認められる可能性がある場合

同居していた相続人に対して、必ずしも家賃を請求できないという原則がある一方で、状況によっては家賃相当額の請求が認められる場合も存在します。特に、遺産分割が完了した後の使用については、法的な扱いが大きく変わってきます。


遺産分割後の単独居住と賃料相当請求

遺産である不動産は、相続開始時点では相続人全員の共有財産とされます。しかし、遺産分割協議や調停などを経て、不動産の帰属先が明確になった場合、その物件は特定の相続人の単独所有となります。

この時点以降、もし他の相続人がその不動産を使用し続けている場合には、使用者は正当な使用権を失っていると見なされ、所有者は「賃料相当額」を請求できる可能性が出てきます。

たとえば、兄弟のうち一人が遺産分割によって家を相続したにもかかわらず、他の兄弟が無断で住み続けているようなケースでは、賃料請求は正当とされることがあります。


相続人間での話し合いと注意点

ただし、請求を行う場合は、まずは当事者間での話し合いが重要です。感情的な対立を避けるためにも、弁護士を交えて冷静に協議を進めることをおすすめします。

また、過去に家賃の請求や支払の事実があるかどうか、使用状況がどのようなものであったか、建物の維持管理や固定資産税の負担状況など、細かな事実関係が法的判断に影響します。

横浜の実務でも、遺産分割が終わっていないにもかかわらず、賃料を請求してしまい、逆に不当利得には該当しないと判断されるケースが多く見られます。請求を考えている場合は、分割の有無を確認し、まずは法的な立場を整理することが先決です。


このように、家賃請求の可否はケースバイケースであり、形式的な理屈だけで進めると、トラブルを悪化させる可能性があります。


横浜での相続トラブルを避けるために

家族間の相続問題は、感情や生活の事情が複雑に絡み合うため、一度トラブルに発展すると関係修復が難しくなります。特に横浜のような都市部では、不動産の評価額が高くなる傾向があり、相続における利害対立が表面化しやすいのが実情です。こうした相続トラブルを未然に防ぐためには、法的知識と準備が不可欠です。


弁護士による事前相談のすすめ

相続が発生する前後の段階で、弁護士に相談しておくことは大きな効果があります。たとえば、「将来的に誰がどこに住むのか」「不動産はどのように分割するか」など、相続に関する考えを事前に整理しておけば、のちの誤解や紛争を回避しやすくなります。


また、すでにトラブルが起きている場合でも、弁護士が第三者として入ることで、感情に左右されずに冷静な話し合いが可能になります。横浜では、地域に根差した法的支援を行っている法律事務所も多く、地元の事情に詳しい弁護士に相談するメリットは非常に大きいです。


遺言書や分割協議書の活用法

トラブルの予防策として、被相続人が元気なうちに遺言書を作成しておくことも効果的です。特に、「特定の子どもに住み続けてもらいたい」「不動産は〇〇に相続させたい」といった希望がある場合は、遺言書に明確に記載しておくことで、残された家族の間での争いを防ぐことができます。

また、相続発生後には「遺産分割協議書」を適切に作成することが重要です。この書面によって、各相続人が何を相続するのかが明確になり、将来的な使用権や所有権をめぐるトラブルを回避できます。


横浜のように土地の価値が高い地域では、相続に伴う法的リスクも比例して高まります。だからこそ、日頃からの備えと、専門家のサポートが不可欠なのです。


まとめと結論

親と同居していた相続人が、被相続人の死亡後もその家に住み続けるという状況は、横浜のような都市部では決して珍しいものではありません。しかし、感情的な事情と法的なルールは必ずしも一致しないため、「家賃を払ってほしい」といった要求が他の相続人から出ることもあります。


本記事でご紹介したように、相続前から同居していた場合は、使用貸借契約が黙示的に成立していたと見なされ、遺産分割が終わるまでは無償で住み続ける権利が認められるのが原則です。ただし、「特段の事情」がある場合や、遺産分割後の単独使用については、家賃相当額の請求が認められるケースもあります。


大切なのは、法律的な立場を冷静に把握し、感情に流されず適切な対応を取ることです。相続問題は早期の情報整理と第三者の介入によって、大きな争いを回避することができます。


よくある質問とその回答

Q:親と同居していた子どもが、他の兄弟より多く遺産をもらえる制度はありますか?不動産に同居していた場合、相続は有利になりますか?

A: 原則として、同居だけを理由に相続分が増えることはありません。

民法上、法定相続人・法定相続分のルールは同居・別居の有無にかかわりません。

同居していた相続人が無償で住み続けることはできますか?


Q:遺産分割まで、同居していた相続人は不動産に住み続けられますか?

A: 被相続人と同居していた相続人は、遺産分割が成立するまで建物などを無償で使用できると認められています。これは最高裁判例でも「黙示の使用貸借」として認められています。


Q:他の相続人が、同居していた相続人に家賃を請求できますか?

A: 遺産分割までは、原則として家賃請求は認められません。黙示の無償使用契約が成立しているとみなされるためです。ただし「遺産分割後」や「特段の事情」があれば別途検討が必要となります。


Q:親と同居していた長男が家を単独で相続できますか?

A: 単独相続したい場合は「①遺言書による指定」、もしくは「②遺産分割協議による同意」のいずれかが必要です。合意が得られなければ家庭裁判所の調停・審判となります。


横浜の弁護士に相談するメリットとお問い合わせ先

相続や不動産の法律問題は、一つ一つの事情によって判断が変わる非常に繊細な分野です。特に「家族間だから話し合えば何とかなる」と考えて放置してしまうと、後に深刻なトラブルへと発展することもあります。


横浜で弁護士に相談することで、地域の不動産事情や相続実務に詳しい専門家が、あなたの状況に応じた最適なアドバイスを提供します。また、第三者の立場から法的見解を伝えることで、他の相続人との話し合いもスムーズに進みやすくなります。


「家賃は払うべきなのか?」「住み続けていて問題ないのか?」といった疑問をお持ちの方は、ぜひ一度、横浜の弁護士にご相談ください。早めの対応が、円満な相続の第一歩となります。


以上、横浜の弁護士が答える!同居していた相続人に家賃請求はできるのか?でした。


弁護士 大石誠

横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階 横浜平和法律事務所

【今すぐ相談予約をする】

電話:〔045-663-2294

横浜の弁護士が答える!同居していた相続人に家賃請求はできるのか?

 
 

最新記事

すべて表示
【掲載情報】相続プラス

相続に強い専門家を幅広くさがすことができる相続の総合情報サイト 相続プラスに掲載中です 横浜平和法律事務所(神奈川県横浜市)(弁護士 大石誠)事務所紹介|相続プラス

 
 
bottom of page