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「争族を防ぐ」という価値観は、もう古い

  • 執筆者の写真: 誠 大石
    誠 大石
  • 6 時間前
  • 読了時間: 8分

はじめに 「争族予防」が相続の目的になっていないか


相続の話になると、必ずと言っていいほど耳にする言葉があります。


「相続で一番大切なのは、争族を防ぐことです。」


遺言を残しましょう。

生前によく話し合いましょう。

財産はできるだけ公平に分けましょう。


もちろん、これらは大切なことです。不要な争いは避けた方がいい。それに異論はありません。


しかし、私は相続の現場で多くの案件に携わる中で、この「争族を防ぐ」という考え方だけでは、現実を十分に説明できないと感じるようになりました。


なぜなら、本当に依頼者を苦しめている相続の多くは、「争っている相続」ではなく、「止まってしまった相続」だからです。


現場で多いのは「争い」ではなく「停滞」


一般的には、相続は次のように考えられています。


・争っている相続=悪い相続

・争っていない相続=良い相続


そして専門家は、その争いを防ぐ存在として位置付けられています。


ところが、実際の現場では、この二分法では説明できないケースが数多くあります。


例えば、相続人同士の仲は悪くありません。


誰も反対していません。


それでも、


「忙しいからまた今度」

「急がなくても困らない」

「誰かが動いてくれるだろう」


そんな空気のまま数年が過ぎ、実家は空き家になり、名義も変わらず、預金も手つかずというケースは決して珍しくありません。


これは「争族」なのでしょうか。


違います。


誰も争っていません。


ただ、誰も動いていないのです。


一方で、兄弟同士は感情的に対立していても、遺言が整備され、遺言執行者がいて、手続きそのものは予定どおり進んでいくケースもあります。


感情は穏やかではありません。


それでも相続は終わります。


つまり、感情の対立と、相続手続きが進むかどうかは、必ずしも一致しないのです。


相続を見る視点を変える


私は、相続は次の二つに分けて考えるべきだと思っています。


一つは、「止まった相続」。


もう一つは、「自走できる相続」です。


止まった相続とは、


・相続人と連絡が取れない

・押印を拒否される

・資料が出てこない

・共有不動産の処分で話が進まない

・認知症の相続人がいる

・遺言の有効性が問題になる


こうした理由で、手続きが前へ進まない状態です。


反対に、自走できる相続は、


感情的な対立が多少あったとしても、


必要な書類がそろい、

必要な人が意思決定でき、

一定のルールに従って手続きが進んでいく状態です。


重要なのは、「争っているか」ではありません。


「前へ進める状態なのか」です。


「争族予防」だけでは解決できない問題がある


止まった相続の原因を見ていくと、その多くは争いそのものではありません。


例えば、


相続人が海外に住んでいて連絡が取れない。


認知症で判断能力がない。


財産の資料が開示されない。


不動産を売りたい人と住み続けたい人がいる。


数次相続が重なり、権利関係が複雑になっている。


こうした問題は、「仲良く話しましょう」というだけでは解決できません。


必要なのは、感情論ではなく、法的な整理や利害調整です。


つまり、「争族予防」という考え方ではなく、「止まっている原因を取り除く」という視点なのです。


「争いは悪」という思い込みも危険


もう一つ、私が違和感を持つのは、「争い=悪」という考え方です。


もちろん、無用な争いを起こすべきではありません。


しかし、争わなければ依頼者の権利を守れない場面もあります。


例えば、


被相続人の預金が使い込まれている疑いがある。


遺言が偽造された可能性がある。


遺留分が侵害されている。


一部の相続人だけが情報を独占している。


こうした場面では、必要な主張を避けることは、依頼者の利益を守ることにはつながりません。


争うことが目的ではありません。


必要な局面で、適切に権利を主張することが目的です。


穏便であることよりも、公正であることが優先される場面は、確かに存在します。


専門家が見るべきなのは「止まっている理由」


私が相談を受けるとき、まず考えるのは、


「この相続は、なぜ動かないのか」


という一点です。


原因は大きく分けると次のようになります。


・連絡が取れない

・協力してくれない

・互いに信用できない

・判断できる人がいない

・利害が対立している

・権利関係が複雑になっている


この原因が分かれば、取るべき手段も見えてきます。


戸籍調査なのか。


成年後見なのか。


調停なのか。


交渉なのか。


あるいは訴訟なのか。


専門家の役割は、「争いがありますね」と説明することではありません。


止まっている理由を見極め、再び動き出せる状態をつくることです。


「止まった相続」を見極める七つの視点


相続が止まる原因は、一つではありません。


私がご相談を受ける中でも、多くのケースは次の7つの症状に整理できます。


1. 人がそろわない相続


相続人の一人と連絡が取れない、所在が分からない、認知症などにより話し合いを始められない状態です。


まずは戸籍や住民票などで所在を確認し、それでも進められない場合は、不在者財産管理人や成年後見制度などの法的手続を検討することになります。


2. 話し合いストップ相続


遺産分割協議書に押印してもらえない、連絡をしても返事がない、一方的な要求で話し合いが止まってしまうケースです。


感情の問題と条件の問題を整理しながら、必要に応じて第三者を交えた交渉を進めることが重要になります。


3. 財産が見えない相続


親の預金や不動産、保険など、相続財産の全体像が分からないケースです。


使い込みや生前贈与への疑念が生じることも少なくありません。


まずは取引履歴や資料を整理し、財産の全体像を把握することが出発点になります。


4. 遺言火種相続


遺言があるにもかかわらず、その内容や有効性、解釈をめぐって手続きが止まってしまうケースです。


遺言があるから安心とは限りません。


内容によっては、かえって争点になることもあります。


5. 金額平行線相続


不動産の評価額や代償金、遺留分など、お金の評価で折り合いがつかない状態です。


感情論ではなく、客観的な評価資料や法的な整理をもとに調整することが必要になります。


6. 実家宙ぶらり相続


実家を誰が取得するのか、住み続けるのか、それとも売却するのかが決まらず、共有状態のまま放置されるケースです。


不動産は時間が経つほど管理や税金などの負担も増えるため、早めに出口を決めることが大切です。


7. 手続終わらない相続


遺産分割は終わったはずなのに、名義変更や預金解約、登記などの手続が途中で止まっているケースです。


また、昔の相続が未処理のまま残り、現在の相続と重なって複雑になっていることもあります。


一つずつ整理し、未了となっている手続を解消していくことが必要です。


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この7つの症状に共通しているのは、「争っているかどうか」ではなく、「手続きが前へ進まなくなっている」という点です。


だから私は、相続を「争族かどうか」で判断するのではなく、「どこで止まっているのか」という視点で考えています。


止まっている理由が分かれば、次に取るべき手段も見えてきます。そして、その段階で法的な調整が必要であれば、弁護士が力を発揮できる場面になります。

どれも珍しい話ではありません。

むしろ、現場では日常的に見かける問題です。





おわりに ─専門家の仕事は、依頼者の人生を前へ進めること


私は、「争族を防ぐ」という考え方を否定したいわけではありません。


不要な争いは避けるべきですし、その努力は大切です。


ただ、それだけでは現実の相続は終わりません。


本当に依頼者を苦しめるのは、何年も、何十年も止まったままの相続です。


名義が変わらない。


家が売れない。


預金が動かない。


次の世代へ問題が引き継がれていく。


だから私は、相続を「争うか、争わないか」で見るのではなく、「止まっているか、動いているか」で考えています。


そして、専門家の役割は、その停滞を終わらせることです。


法律を使い、交渉を行い、ときには裁判所の力も借りながら、依頼者の人生が再び前へ進める状態をつくる。


相続手続きを終わらせることは、単に書類を完成させることではありません。


依頼者が次の人生へ進むための環境を整えることです。


私はこれからも、「争族を防ぐ」という言葉だけにとらわれるのではなく、「止まった相続を終わらせる」という視点を大切にしながら、一つひとつの案件と向き合っていきたいと思っています。


『止まった相続を終わらせる弁護士』大石誠

横浜市中区日本大通17番地ゲートテラスヨコハマ10階 横浜平和法律事務所

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電話:〔045-663-2294


【追記】

税理士・司法書士・行政書士の先生に依頼したのに、相続が止まったままではありませんか?

手続は進んでも話し合いが進まない。相続が止まるのには理由があります。

「止まった相続を終わらせる」という考え方はこちらにも掲載しました。



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