横浜の弁護士が解説|人身傷害保険の死亡保険金は相続財産に含まれる?
- 誠 大石

- 11月3日
- 読了時間: 8分
更新日:11月5日
人身傷害保険と生命保険の違いがわかりづらい?横浜で多い相続相談から見える実務のポイント
交通事故や不慮の事故による被害で亡くなった方の保険金をめぐり、「人身傷害保険の死亡保険金は相続財産に含まれるのか?」という疑問が、横浜をはじめ多くの地域で頻繁に相談されるようになっています。
特に、人身傷害保険と生命保険の違いを正しく理解していないまま、相続放棄や保険金請求の判断をしてしまうと、後々深刻なトラブルや不利益を招くおそれもあります。
2025年10月30日(令和7年)の最高裁判決(hanrei-pdf-94921.pdf)によって、この論点について明確な整理が示されました。本記事では、横浜の弁護士として多くの相続実務を扱う筆者が、この最新判例の内容と実務への影響をわかりやすく解説します。
「保険金の受け取りに関して、法定相続人と書かれているけど相続放棄した人でももらえるの?」
「生命保険と同じように受取人固有の権利だと思っていたけど違うの?」
などの疑問をお持ちの方は、ぜひ最後までご覧ください。
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人身傷害保険の死亡保険金とは?生命保険との違い
損害保険としての人身傷害保険の特徴
人身傷害保険は、自動車保険の特約などに付されることが多い「損害保険」の一種です。その目的は、交通事故などによって被保険者が身体的な損害を受けた場合に、その損害を補填することです。
保険金の算定方法も、いわゆる「定額給付型」ではなく、実際に発生した損害(治療費、葬儀費用、逸失利益、精神的損害など)に基づいて行われます。つまり、保険事故の結果として「いくらの損害が発生したか」に応じて支払額が決まるのが特徴です。
このため、人身傷害保険の死亡保険金も、被保険者に発生した損害(例えば、葬儀費用や将来得られたはずの収入)をカバーするものであり、「損害填補」が中心的な性質となります。
生命保険との根本的な構造の違い
一方で、生命保険は「定額給付型」の保険です。被保険者が死亡した際には、事前に契約で定めた金額が、指定された「受取人」に支払われます。この場合、受取人は契約上の固有の権利を持ち、死亡保険金請求権は相続財産には含まれません。
たとえば、生命保険で「受取人:妻」と指定されていれば、たとえその配偶者が相続放棄していても、死亡保険金は請求可能です。
しかし、人身傷害保険ではそうはいきません。その性質上、死亡によって生じた損害を填補するものなので、まずはその損害が被保険者本人に発生したものとみなされ、その請求権は相続財産に含まれることになります。
このように、「損害保険」としての人身傷害保険と、「定額給付型保険」としての生命保険では、構造的に全く異なる請求権の帰属ルールが存在します。
横浜での人身傷害保険金をめぐる相続トラブルとは
被保険者の死亡時、請求権は誰に帰属するのか
人身傷害保険における死亡保険金の請求権は、生命保険とは異なり、まず被保険者本人に発生するものと考えられています。つまり、保険事故(死亡)により生じた損害は、被保険者の「損害」として認識され、その補填としての保険金請求権も被保険者に帰属します。
この点は、令和7年10月30日の最高裁判決で明確にされました。同判決では、人身傷害保険契約の約款に「被保険者が死亡した場合は、その法定相続人が請求権者となる」と記載されていても、それは単なる説明的文言にすぎず、保険金請求権が相続によって承継されることを前提にしているとされました。
したがって、死亡保険金の請求権は相続財産の一部として扱われ、相続人がこれを承継して請求することになります。
「法定相続人に支払う」条項の法的意味
保険契約の約款にしばしば見られる「死亡した場合には法定相続人に保険金を支払う」という記載は、一見すると生命保険と同じように、相続とは無関係に「受取人固有の権利」が発生するように思えるかもしれません。
しかし、人身傷害保険においてはこの記載は、法定相続人が請求権を「相続によって」取得することを前提にした補足的説明にすぎないと解されています。
実際、令和7年最高裁も、この文言は注意的な規定であり、請求権が相続財産に属することを前提としていると述べています。
このため、「相続放棄」している場合には、たとえ法定相続人であってもその請求権は失われる点に注意が必要です。横浜の相続相談でも、「自分は相続放棄したが保険金だけは受け取れると思っていた」という誤解が少なくありません。
令和7年10月30日最高裁判決が明確にしたポイント
保険金請求権は「遺産」として相続される
令和7年10月30日の最高裁判決(第一小法廷)は、人身傷害保険における死亡保険金請求権の法的性質について、実務上の重要な基準を示しました。
この判決では、保険契約の約款の文言や構造、保険金の算定方法(逸失利益・精神的損害・葬儀費など)から、人身傷害保険金は、損害を補填する金銭であり、被保険者に発生した損害に対して支払われるものであると明示されました。
そのため、死亡により発生した保険金請求権は、被保険者自身にまず帰属し、死亡後は相続財産の一部として相続人に承継されるという判断が下されました。
これにより、生命保険との法的な位置づけの違いが明確化され、今後の実務において「請求権は遺産に含まれるのか否か」で争われる場面は大きく減少すると見込まれます。
相続放棄した者は請求できない理由とは
この最高裁判決の大きな意義の一つが、「相続放棄をした法定相続人は、人身傷害保険金の請求権を取得できない」と明確に認定した点です。
本件では、被保険者の子らが相続放棄を行った結果、母親が単独相続人となり、死亡保険金請求権を相続により取得しました。これに対し、保険会社は「子らが原始的に取得する」と主張しましたが、最高裁はこの主張を退けました。
判決では、「相続放棄をすれば当然に保険金請求権を取得できない。約款中の“法定相続人”という表現は、請求権が相続財産であることを前提とした補足説明にすぎない」とし、相続と保険金請求権の密接な関係を再確認しています。
これは、相続放棄によってすべての権利義務を放棄する以上、保険金請求権も放棄の対象になる、という基本原則に立脚した判断です。
横浜での実務的な留意点とチェックリスト
保険約款の確認ポイント
人身傷害保険の死亡保険金に関しては、保険契約ごとに定められている「約款(やっかん)」の内容を正確に読み解くことが重要です。
特に注目すべきは以下の3点です:
1. 損害の算定方式:約款に「逸失利益」「精神的損害」「葬儀費」など、損害の補填項目が明記されているか。
2. 控除条項:他の給付(労災・加害者からの賠償など)との調整についての記載。
3. 請求権者の規定:死亡時に「法定相続人とする」とある場合、その意味が“説明的文言”に過ぎないかを理解する。
これらが明記されている場合、死亡保険金は生命保険のような受取人固有の権利ではなく、相続財産に含まれる損害保険金であることが明らかになります。
横浜でも、事故後に相続放棄した家族が「請求できると思っていた」と誤解しトラブルになる事例が見受けられるため、約款のチェックは必須です。
放棄と単純承認のリスク管理
相続放棄をした場合、人身傷害保険の死亡保険金も相続財産の一部として扱われるため、請求することはできません。
さらに注意すべきは、放棄を選択したあとに保険金を請求・受領してしまうと、それが「相続財産の処分」と見なされ、単純承認(相続をすべて受け入れる意思)と評価されてしまう可能性があるという点です。
横浜の実務でも、「放棄はしたが保険金だけ受け取った」という行動が問題視されるケースが発生しています。このようなリスクを回避するには、相続放棄をする前に保険金の法的性質を明確にしておくことが大切です。
また、相続放棄後に保険金の請求を検討している場合は、必ず弁護士に相談し、リスクの有無を確認しましょう。
まとめと結論
人身傷害保険の死亡保険金請求権については、生命保険とは異なり、請求権がまず被保険者本人に帰属し、その後相続により承継される「相続財産」であることが、令和7年10月30日の最高裁判決で明確に示されました。
この判例により、「法定相続人とする」との約款の記載が、あくまで相続による権利承継を前提とした注意的表現であることが再確認され、実務における誤解や混乱も大幅に減少すると期待されます。
特に横浜のような都市部では、自動車保険への人身傷害特約加入率も高く、交通事故による死亡事案も少なくないため、保険金の取扱いは重要な相続実務のひとつです。
相続放棄との関係、生命保険との区別、約款の読み方など、専門的な知識が要求されるこのテーマにおいては、事前の法的確認がトラブルを防ぐ最大のポイントとなります。
人身傷害保険の死亡保険金に関するトラブルや誤解は、法的知識の有無により対応が大きく変わります。
とくに相続放棄や保険金の処分に関する判断は、取り返しのつかないリスクを伴うこともあります。横浜で相続に関するご不安をお持ちの方、事故後の保険金請求に疑問を感じている方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
なお、課税の関係はこちらの記事が詳しいです。
当事務所では、横浜を中心に交通事故や相続関連の相談を数多く取り扱っており、今回の最高裁判決の内容を踏まえたアドバイスが可能です。
以上、「横浜の弁護士が解説|人身傷害保険の死亡保険金は相続財産に含まれる?」でした。
弁護士 大石誠
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