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  • 執筆者の写真誠 大石

財産開示手続

最高裁のホームページに興味深い決定が掲載されていました。


1 債務者の財産状況の調査方法

例えば、勝訴判決を得たものの被告(債務者)が判決に書かれた金員を支払ってくれない、養育費を支払う旨の調停が成立したのにこれを支払ってくれないといった場合に、債権者は、①財産開示手続や、②第三者からの情報取得手続を利用することで、裁判所を通じて、債務者の財産に関する情報を入手することができます。

財産開示手続という制度自体は平成15年から存在しましたが、実効性に疑義があったことから、令和元年に罰則を強化するなどの改正がされました。


2 財産開示手続の要件

民事執行法197条は財産開示手続の要件を定めたもので、執行力のある債務名義の正本を有する債権者の場合の要件は、以下のように整理されます。


①執行開始の要件を備えていること※債務名義の正本又は謄本が送達されていることなど


強制執行を開始することができない場合でないこと

※債務者の破産手続開始決定、民事再生手続開始決定などがされていないこと


③A 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続で完全な弁済を得ることができなかったとき

※配当表、弁済金交付計算書の写しなどを提出


③B 知れている財産に対する強制執行を実施しても完全な弁済を得られないことの疎明があったとき

※不動産の調査をしたが所有していない、預貯金口座の残額では完全な弁済が得られない、勤務先を調査したが不明など


④債務者が申立ての日前3年以内に財産開示期日においてその財産を開示した者でないこと


3 罰則

財産開示手続の決定がされると、財産開示期日が指定され、債務者=開示義務者を呼び出します。正当な理由なく財産開示期日に欠席したり、宣誓拒絶、虚偽陳述に対しては6か月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。


関連するニュースとしては、

例えば、

・財産開示手続に出頭しなかったとして民事執行法違反の嫌疑で不起訴となった者に対して、検察審査会が「起訴相当」と議決したというものがあります。 ・また、財産開示手続に正当な理由なく出頭しなかった者を民事執行法違反で逮捕したというものもあります。


4 今回の最高裁決定

概要、以下のような事案でした。

①債権者と債務者とは、子どもの養育費について合意をして、離婚した

②養育費の不払いがあったため、債権者が財産開示手続の申立てをした

③原々審は、申立ての要件を満たすとして財産開示実施決定をした

④その後、債務者は、③に対して不服申立てをした上で、不払いがあった分については全部を弁済した

⇒原審は、申立ての根拠となっていた債権は弁済により消滅したとして、原々決定を取り消し、申立てを却下した


最高裁は、以下のとおり判断して、原審の決定を取り消しました。


「法には、実体上の事由に基づいて強制執行の不許を求めるための手続として、請求異議の訴えが設けられているところ、請求債権の存否は請求異議の訴えによって判断されるべきものであって、執行裁判所が強制執行の手続においてその存否を考慮することは予定されておらず、このことは、強制執行の準備として行われる財産開示手続においても異ならないというべきである。そのため、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者から法197条1項2号に該当する事由があるとして財産開示手続の実施を求める申立てがあった場合には、執行裁判所は、請求債権の存否について考慮することなく、これが存するものとして当該事由の有無を判断すべきである。そして、債務者は、請求異議の訴え又は請求異議の訴えに係る執行停止の裁判の手続において請求債権の不存在又は消滅を主張し、法39条1項1号、7号等に掲げる文書を執行裁判所に提出することにより、財産開示手続の停止又は取消しを求めることができるのであり(法203条において準用する法39条1項及び40条1項)、法203条が法35条を準用していないことは、上記事由があるとしてされた財産開示手続の実施決定に対する執行抗告において、債務者が請求債権の不存在又は消滅を主張することができる根拠となるものではない。したがって、法197条1項2号に該当する事由があるとしてされた財産開示手続の実施決定に対する執行抗告においては、請求債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とすることはできないと解するのが相当である。」


(令和3年(許)第16号 財産開示手続実施決定に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件 令和4年10月6日 第一小法廷決定)


民事執行法197条5項は財産開示手続の実施決定に対して、「執行抗告」という不服申立ての方法を用意しています。

この「執行抗告」とは、執行を決定した裁判所の処分を争う方法です。


今回のケースの債務者は、この執行抗告という方法の中で④(全て弁済した)と反論し、下級審でもこの反論を認めたというものでした。


最高裁の判断は、債務者の主張する④(全て弁済した)の事実は、「執行抗告」ではなく「請求異議の訴え」という方法によるべきであって、執行を決定する裁判所は④の反論を考慮してはいけないというものでした。


よく言われる説明ですが、権利の有無を判定する機関(裁判所)と、迅速な執行手続が要請される執行機関(裁判所)とが分離されることで、執行機関(裁判所)は権利の存否の負担を免除され、執行行為に専念するとされています。


財産開示手続の要件の中にも、実体上の事由(弁済によって債権が消滅したことなど)が規定されていないことからしても、このような結論に至ると思います。


財産開示手続が活用されるようになったことから登場した決定でした。


弁護士 大石誠

横浜市中区日本大通17JPR横浜日本大通ビル10階

横浜平和法律事務所(神奈川県弁護士会所属)

電話:045-663-2294

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