配偶者居住権とは、亡くなった配偶者の住居に対して、残された配偶者が生涯または一定期間にわたり居住する権利を持つことを保障する制度です。
配偶者居住権は、主に配偶者の生活を安定させるために設けられたものであり、特に高齢者夫婦にとって大きな支えとなります。
配偶者居住権は、亡くなった配偶者の遺産分割協議や遺言によって設定されます。
遺産分割協議においては、他の相続人との間で住居の扱いを明確にすることで、残された配偶者が安心して住み続けることができます。
また、遺言によって配偶者居住権を設定することも可能です。この場合、配偶者の居住権が優先的に保護されるため、住居を手放す必要がなくなります。
条文
(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。
【配偶者居住権のメリット】
配偶者居住権の最大のメリットは、配偶者が安心して住み続けることができる点です。
以下に、具体的なメリットを挙げます。
1.生活の安定
配偶者居住権が設定されることで、残された配偶者は住居を手放さずに済みます。これにより、転居の負担を避けることができますし、住居費の負担が軽減され、生活の安定が図れます。特に、高齢者にとっては住み慣れた場所での生活を続けられることが精神的な支えとなります。
2.遺言による保護
配偶者居住権は、遺言によっても設定できるため、遺言者の意思を反映させやすくなります。
これにより、配偶者が確実に住み続ける権利を持つことができ、安心して生活を続けられます。
3.第三者への対抗
配偶者居住権は登記が義務づけられており、登記によって第三者に対抗できます。
そのため配偶者居住権は、第三者に対抗できない使用借権よりも強力な権利であり、配偶者の住居を安定的に確保できる点が大きなメリットです。
法制化前は、「黙示の使用貸借」といった理論で同居していた相続人の居住権を保護していましたが、登記ができるようになったことは大きなメリットといえます。
4.賃料の問題が生じない
配偶者居住権は、無償での使用収益(居住)を認めるという権利です。
賃貸借と異なり、残された配偶者は、自宅の所有者に対して、毎月の賃料を支払うことなく、住み続けることができます。
【配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い】
配偶者居住権と配偶者短期居住権は、いずれも配偶者の居住を保障するための権利ですが、以下の点で異なります。
1.居住期間の違い
配偶者居住権は、原則として配偶者の生涯にわたって保障される権利です。
一方、配偶者短期居住権は、遺産分割が確定するまでの一定期間(通常は6か月間)に限られた権利です。この期間中に配偶者は新たな転居先を確保し、遺産分割協議が進行する間の住居の不安を軽減することが目的です。
もっとも、配偶者短期居住権では、高齢の配偶者にとって、新たな転居先を確保することの負担を避けることはできません。
2.設定の方法
配偶者居住権は、遺産分割協議や遺言によって設定されますが、配偶者短期居住権は法律によって自動的に認められる権利です。
したがって、配偶者短期居住権は、特別な手続きなくしても配偶者が住み続けることができます。
3.法的保護の範囲
配偶者居住権は、登記することで第三者に対しても主張できる権利となります。
これに対して、配偶者短期居住権は登記ができませんので、第三者に対抗することができません。
4.相続税の問題
配偶者居住権には相続税が課されますが、配偶者短期居住権には課税されません。
【配偶者居住権を活用すべきケース】
配偶者居住権は、以下のようなケースで特に有効に活用できます。
1.高齢の配偶者がいる場合
高齢の配偶者がいる場合、住み慣れた場所から離れることは大きなストレスとなります。
配偶者居住権を設定することで、高齢の配偶者が安心して住み続けることができ、生活の質を維持することができます。
2.配偶者が経済的に不安定な場合
配偶者が経済的に不安定な場合、住居費の負担が大きな問題となります。配偶者居住権を設定することで、住居費の負担を軽減し、配偶者の経済的な安定を図ることができます。
3.他の相続人とのトラブルを避けたい場合
遺産分割協議において、住居をめぐるトラブルは少なくありません。
配偶者居住権を設定することで、他の相続人との間で住居の扱いについての合意が容易になり、トラブルを未然に防ぐことができます。
4.遺言によって意思を明確にしたい場合
遺言者の意思を明確にするために、配偶者居住権を遺言に盛り込むことが有効です。これにより、遺言者の意思が確実に実現され、配偶者の生活を保障することができます。
【まとめ】
配偶者居住権は、配偶者の生活を安定させるための重要な制度です。
遺言書を作成し、この権利を活用することで、高齢の配偶者や経済的に不安定な配偶者が安心して住み続けることができますし、遺産分割におけるトラブルを避けることができます。
遺言によって配偶者居住権を設定することで、遺言者の意思を確実に実現することができます。
配偶者居住権についてのご相談やご質問がございましたら、ぜひお問い合わせください。 あなたの大切な財産と家族を守るために、全力でサポートいたします。
弁護士 大石誠
横浜市中区日本大通17JPR横浜日本大通ビル10階
横浜平和法律事務所(神奈川県弁護士会所属)
電話:045-663-2294
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