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神奈川県での配偶者居住権の最新動向と実務上の注意点【弁護士解説】

執筆者の写真: 誠 大石誠 大石

更新日:6 日前

はじめに


「夫が亡くなった後も、今の家に住み続けたい」「相続でもめることなく、安心して暮らしたい」

そんな願いを叶える制度として、「配偶者居住権」 があります。これは、夫婦の一方が亡くなったときに、残された配偶者が自宅に住み続けられるようにするための権利です。

この制度は、令和2年4月に導入されましたが、最初のころは利用件数が少なく、なかなか浸透していませんでした。しかし、ここ数年で少しずつ増えており、令和5年には全国で911件の配偶者居住権の登記が行われました。神奈川県でも関心が高まりつつあります。

ただし、配偶者居住権には取得の条件や制限があり、知らずにいると「使えると思っていたのに適用されなかった!」というケースもあります。また、実際に活用するには登記や遺産分割の手続きが必要になるため、事前にしっかり準備することが大切です。


『神奈川県での配偶者居住権の最新動向と実務上の注意点【弁護士解説】』

この記事では、神奈川県における配偶者居住権の最新動向と、弁護士の視点から見た実務上の注意点について、わかりやすく解説します!


神奈川県での配偶者居住権の最新動向


配偶者居住権が導入されてから数年が経ち、全国的にも少しずつ利用が進んでいます。特に、都市部や高齢化が進む地域では関心が高まっていると言われています。

では、神奈川県ではどのような状況なのでしょうか?


配偶者居住権の登記件数の推移

配偶者居住権を利用した場合、その権利を第三者に対抗するためには登記が必要になります。実際に登記された件数の推移を見ると、全国的には以下のように増えています。

  • 令和3年:880件

  • 令和4年:892件

  • 令和5年:911件(前年比+19件)

神奈川県内の詳細な件数は公表されていませんが、全国の傾向に準じて徐々に増加傾向にあると考えられます。特に、横浜市や川崎市などの都市部では、配偶者居住権を活用して相続対策を行うケースが増えてきています。


どんなケースで利用されているのか?

実際に、神奈川県内で配偶者居住権が利用されている事例を見ると、以下のようなケースが目立ちます。

  • 「夫が亡くなった後も、妻が自宅に住み続けたい」

    → 配偶者居住権を設定し、他の相続人(子どもなど)との遺産分割をスムーズに進める。

  • 「自宅は夫名義だったが、妻には預貯金も残したい」

    → 配偶者居住権を取得し、自宅の所有権は子どもへ。その分、妻は預貯金を多めに相続。

  • 「夫婦のどちらかが再婚で、前婚の子どもとの相続トラブルを防ぎたい」

    → 配偶者居住権を活用して住まいを確保しつつ、遺産分割を円滑にする。


こうしたケースを見ると、配偶者居住権は「住む場所を確保しつつ、遺産分割を柔軟に調整できる」制度であることがわかります。ただし、適用には条件があるため、次に基本ルールと活用方法について詳しく解説していきます。


配偶者居住権の基本ルールと活用方法


配偶者居住権は、自宅に住み続けられる安心を得られる反面、取得の条件や制約があるため、正しく理解しておくことが大切です。ここでは、基本ルールと具体的な活用方法について解説します。


配偶者居住権とは、亡くなった配偶者の住居に対して、残された配偶者が生涯または一定期間にわたり居住する権利を持つことを保障する制度です。

配偶者居住権は、亡くなった配偶者の遺産分割協議や遺言によって設定されます。

遺産分割協議においては、他の相続人との間で住居の扱いを明確にすることで、残された配偶者が安心して住み続けることができます。

また、遺言によって配偶者居住権を設定することも可能です。この場合、配偶者の居住権が優先的に保護されるため、住居を手放す必要がなくなります。


(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

配偶者居住権が認められる要件

配偶者居住権を取得するためには、以下の要件を満たしている必要があります。


① 被相続人(亡くなった配偶者)が所有していた建物であること

配偶者居住権の対象になるのは、亡くなった方が所有していた建物です。例えば、次のようなケースでは対象になります。

夫が単独で所有していた自宅

夫婦で共有していた自宅(夫の持ち分を相続する場合)

しかし、次のようなケースでは対象になりません。

賃貸住宅(元々夫婦の持ち家でない場合)

他の親族名義の家(例:夫の親が所有している家に住んでいた場合)


② 配偶者がその建物に住んでいたこと

配偶者居住権を得るには、実際にその家に住んでいたことが条件になります。たとえば、次のような場合は認められません。

夫が亡くなる前に老人ホームなどへ入居していた

別の家に住んでいて、相続後に住みたいと考えている

このため、配偶者居住権を利用するためには、亡くなった配偶者と一緒に住んでいたことが前提となります。


③ 遺言や遺産分割協議で認められること

配偶者居住権は、自動的に発生するわけではなく、遺言や遺産分割協議を通じて決定されます。そのため、以下のどちらかの方法で取得する必要があります。

被相続人(亡くなった方)が「配偶者居住権を妻に遺贈する」と遺言書を残している

相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で配偶者居住権を設定する


配偶者居住権のメリットとデメリット

配偶者居住権には、大きなメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。


メリット

住む場所を確保できる→ 家の所有権を持たなくても、亡くなった配偶者の家に住み続けることが可能です。転居の負担を避けることができますし、住居費の負担が軽減され、生活の安定が図れます。特に、高齢者にとっては住み慣れた場所での生活を続けられることが精神的な支えとなります。


相続財産を有効に分配できる→ 家の所有権を相続しない分、預貯金やその他の財産を多めに取得できるため、相続人間のバランスがとりやすい。


家の維持費が軽減できる配偶者居住権は、無償での使用収益(居住)を認めるという権利です。賃貸借と異なり、残された配偶者は、自宅の所有者に対して、毎月の賃料を支払うことなく、住み続けることができます。


第三者に対抗(主張)できる配偶者居住権は登記が義務づけられており、登記によって第三者に対抗できます。そのため配偶者居住権は、第三者に対抗できない使用借権よりも強力な権利であり、配偶者の住居を安定的に確保できる点が大きなメリットです。法制化前は、「黙示の使用貸借」といった理論で同居していた相続人の居住権を保護していましたが、登記ができるようになったことは大きなメリットといえます。


デメリット

家を売ることができない→ 配偶者居住権を持っていても所有権はないため、家を売却することはできない


賃貸に出すこともできない→ たとえ広い家であっても、空き部屋を貸し出すことは不可能。第三者に対しては使用できない制約がある。


登記をしないと第三者に対抗できない登記をしていないと、家を買い取った新しい所有者が「出て行ってください」と言う可能性もあるため、注意が必要。


具体的な活用方法(事例紹介)

配偶者居住権の活用方法について、具体的な事例を紹介します。


ケース①:住み続けながら預貯金も確保したい

📌 状況:夫が亡くなり、妻と子ども(2人)が相続人。自宅の評価額は3,000万円、その他の財産は1,500万円。

📌 対応策

  • 妻が配偶者居住権を取得(評価額1,000万円相当)

  • 子どもが自宅の所有権を取得(評価額2,000万円)

  • 妻は預貯金1,500万円を相続

📌 結果:妻は家に住み続けながら、預貯金も確保できた。


ケース②:再婚家庭での相続トラブルを防ぐ

📌 状況:夫が亡くなり、後妻(配偶者)と、前妻の子どもが相続人。

📌 対応策

  • 配偶者が配偶者居住権を取得して住み続ける

  • 前妻の子どもは家の所有権を取得

📌 結果:相続争いを防ぎつつ、配偶者の住まいも確保できた。


まとめ

配偶者居住権は、住み続ける安心を得られる一方で、所有権がないため売却や賃貸ができないなどの制約があります。そのため、メリットとデメリットを理解し、どのように活用するかを事前に検討することが重要です。

配偶者が高齢だったり、経済的に不安定な場合や、(特に再婚のケースなど)他の相続人とのトラブルを避けたい場合に活用を検討すると良いです。


配偶者短期居住権との違い

配偶者居住権と配偶者短期居住権は、いずれも配偶者の居住を保障するための権利ですが、以下の点で異なります。


1.居住期間の違い

配偶者居住権は、原則として配偶者の生涯にわたって保障される権利です。

一方、配偶者短期居住権は、遺産分割が確定するまでの一定期間(通常は6か月間)に限られた権利です。この期間中に配偶者は新たな転居先を確保し、遺産分割協議が進行する間の住居の不安を軽減することが目的です。

もっとも、配偶者短期居住権では、高齢の配偶者にとって、新たな転居先を確保することの負担を避けることはできません。


2.設定の方法

配偶者居住権は、遺産分割協議や遺言によって設定されますが、配偶者短期居住権は法律によって自動的に認められる権利です。

したがって、配偶者短期居住権は、特別な手続きなくしても配偶者が住み続けることができます。


3.法的保護の範囲

配偶者居住権は、登記することで第三者に対しても主張できる権利となります。

これに対して、配偶者短期居住権は登記ができませんので、第三者に対抗することができません。


4.相続税の問題

配偶者居住権には相続税が課されますが、配偶者短期居住権には課税されません。


神奈川県での実務上の注意点【弁護士の視点】


配偶者居住権は、住み続ける権利を確保できる便利な制度ですが、実際に活用する際にはいくつかの注意点があります。特に、遺産分割協議や登記の手続きでトラブルが発生するケースも少なくありません。

ここでは、弁護士の視点から見た実務上の注意点を詳しく解説します。


遺産分割協議でのトラブル防止策


他の相続人との合意を得ることが重要

配偶者居住権は、遺言または遺産分割協議によって取得できますが、遺産分割協議を行う場合は、他の相続人全員の同意が必要になります。

例えば、夫が亡くなり、妻と子ども2人が相続人だった場合、

妻が「配偶者居住権」を希望

子どもたちが「家の所有権」を希望

この場合、全員が納得できる形で遺産を分割しなければなりません。「家を売却して現金で分けたい」と考える相続人がいると、話し合いがまとまらないこともあります。

対策

  • 事前に遺言を作成しておく(「妻に配偶者居住権を与える」旨を明記)

  • 生前に相続人と話し合いをしておく(相続発生後のトラブルを防ぐ)

弁護士に相談しながら遺言を作成しておけば、相続人同士のトラブルを未然に防げます。


配偶者居住権の登記は必須!手続きを忘れずに

1. 登記をしないと第三者に権利を主張できない

配偶者居住権は、成立しただけでは完全に保護されるわけではなく、第三者に対抗するためには登記が必要です。

例えば、

夫が亡くなり、妻が配偶者居住権を取得したが、登記をしなかった

その後、家を相続した子どもが、家を売却してしまった

この場合、登記がなければ、新しい所有者から「退去してください」と言われても対抗できません。

対策

  • 配偶者居住権の登記は速やかに行う(所有者が登記義務を負う)

  • 弁護士や司法書士に依頼し、確実に登記を完了させる


2. 登記できるのは「建物」だけ!土地は対象外

配偶者居住権は「建物」に対してのみ設定できます。土地には登記ができないため、土地を相続した相続人が「土地を売りたい」と考えた場合、配偶者の権利が不安定になる可能性があります。

対策

  • 建物だけでなく、土地の使用権(借地権など)についても検討する

  • 土地の所有権についても、遺産分割協議で明確に決めておく


配偶者居住権を使うべきか?ケースごとの判断

配偶者居住権は、すべてのケースで有利になるわけではありません。以下の点を考慮しながら、利用するかどうかを慎重に判断することが重要です。

配偶者が「住み続けること」を最優先したい場合 → 配偶者居住権は有効

相続人(子ども)との関係が良好で、家の所有権を持たせても問題ない場合 → 配偶者居住権は不要かも?

家を将来的に売却する可能性がある場合 → 配偶者居住権がデメリットになる可能性

ケースバイケースで最適な選択をするためにも、弁護士のアドバイスを受けるのが安心です!


まとめ

配偶者居住権を活用する際の実務上の注意点を整理すると、以下の3つが重要です。

遺言書で明記しておくこと

配偶者居住権の登記を必ず行うこと(建物のみ対象)

評価額を理解し、相続財産全体のバランスを考えること

配偶者居住権は、適切に活用すれば「住まいの安心」を確保できる有効な制度ですが、登記や評価額の計算など専門的な知識が必要です。


配偶者居住権に関する相談は弁護士へ!


配偶者居住権は、住み続ける安心を得られる便利な制度ですが、実際に活用するには相続人との合意形成、登記手続き、評価額の計算など、専門的な知識が必要になります。特に、遺産分割協議でトラブルが発生しやすい点に注意が必要です。

「本当に配偶者居住権を選ぶべきか?」「登記の手続きをどうすればいい?」「相続人との話し合いをスムーズに進めたい」

このようなお悩みがある方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。


弁護士に相談するメリット

最適な相続プランを提案してもらえる→ 配偶者居住権を利用すべきか、所有権を取得した方がよいか、専門家の視点でアドバイス。

相続人との交渉をスムーズに進められる→ トラブルになりやすい遺産分割協議も、弁護士が間に入ることで円滑に進められる。

登記や手続きを確実に進められる→ 配偶者居住権の登記をスムーズに完了し、安心して住み続けられるようサポート。


神奈川県で弁護士に相談するなら?

神奈川県内には、相続問題や配偶者居住権に詳しい弁護士が多数在籍しています。特に、横浜、川崎、相模原、藤沢などの都市部では、無料相談を実施している法律事務所もあります。

まずは、早めの相談が肝心!相続は時間が経つほど複雑になりやすいため、「まだ準備ができていない」という方も、まずは気軽に弁護士に相談してみてください。


配偶者居住権は、配偶者が安心して住み続けられる強力な制度ですが、実際に活用するには細かな手続きが必要です。「どうすればいいかわからない…」と迷ったら、ぜひ神奈川県の弁護士に相談し、最適な解決策を見つけましょう!


弁護士 大石誠

横浜市中区日本大通17JPR横浜日本大通ビル10階

横浜平和法律事務所(神奈川県弁護士会所属)

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電話:〔045-663-2294

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