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特別受益は税務署で調べられる?神奈川県の弁護士が解説

  • 執筆者の写真: 誠 大石
    誠 大石
  • 6 日前
  • 読了時間: 16分

更新日:2 日前

はじめに

「兄が生前に多額の援助を受けていたようだ」「姉だけが相続時精算課税を利用して贈与を受けていたのではないか」など、相続人の一部に対する生前贈与が疑われることがあります。

このような場合、遺産分割において特別受益を主張するためには、贈与があったことや、その金額・目的などを客観的な資料によって明らかにしなければなりません。

生前贈与を調べる方法の一つとして考えられるのが、相続税法49条に基づく「贈与税の申告内容の開示請求」です。

ただし、この制度は、相続トラブルの証拠を自由に集めるための制度ではありません。利用できる人や目的が限定されており、開示される内容も贈与税申告書に記載された一定の合計額に限られます。

この記事では、神奈川県で相続問題を取り扱う弁護士の視点から、税務署への開示請求によって分かること、分からないこと、特別受益の立証に活用する際の注意点を解説します。

※本記事は2026年8月時点の法令・公表資料を前提としています。


特別受益とは?生前贈与が相続分に与える影響

特別受益は「相続分の前渡し」に当たる利益

共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けた人や、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として生前贈与を受けた人がいる場合、その利益が「特別受益」に該当することがあります。

特別受益が認められると、相続人間の公平を図るため、その贈与を相続財産に持ち戻したものとして具体的な相続分を計算することがあります。


典型的には、次のような贈与が問題となります。

・住宅の購入資金や土地の贈与

・事業を始めるための開業資金

・独立する際のまとまった金銭援助

・婚姻に伴う多額の持参金や住宅資金

・相続人の一人だけに行われた不動産の贈与

もっとも、親から子への送金がすべて特別受益になるわけではありません。扶養義務の範囲内の生活費や学費、通常の祝い金などは、金額や家族の資産状況、贈与の目的などによっては、特別受益に該当しないことがあります。


特別受益を主張する側に証拠が必要

遺産分割で特別受益が争われた場合、原則として、特別受益を主張する側がその内容を具体的に示す必要があります。

家庭裁判所の案内でも、他の相続人が特別受益に当たる贈与を受けたと主張する場合には、贈与の内容と金額を特定し、それを裏付ける証拠を提出する必要があると説明されています。家庭裁判所が一方の相続人に代わって資料を集めてくれるわけではありません。

そのため、「父から聞いたことがある」「兄は以前より生活が豊かだった」といった抽象的な事情だけでは不十分です。

被相続人の預金からいつ、誰に、いくら移動したのか、その金銭が贈与だったのか貸付けだったのか、どのような目的で交付されたのかを、できる限り客観的な資料で明らかにする必要があります。


特別受益は税務署への照会で調べられる?

相続税法49条に基づく開示請求とは

相続税法49条には、一定の要件を満たす人が、他の相続人等に関する贈与税の申告内容について、税務署長に開示を請求できる制度が設けられています。

この制度により開示されるのは、主に次の金額です。

  1. 加算対象期間内の暦年課税による贈与について、贈与税申告書に記載された課税価格の合計額

  2. 相続時精算課税の適用を受けた贈与について、贈与税申告書に記載された課税価格の合計額

国税庁は、この開示請求について、被相続人に係る相続税申告書の提出または更正の請求に必要となる場合に利用できる手続と案内しています。


相続人なら誰でも利用できるわけではない

注意したいのは、単に法定相続人であるというだけで、相続トラブルの調査目的に自由に利用できる制度ではないという点です。

原則的な対象者は、相続、遺贈または相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得し、被相続人に関する相続税申告書の提出や更正の請求をしようとする人です。

したがって、遺産分割で特別受益を主張したいという目的だけではなく、相続税申告または更正の請求に必要であるという制度上の要件を満たすかを確認する必要があります。

実際に請求できるか判断が難しい場合には、相続税申告を担当する税理士や、相続問題を扱う弁護士に確認することが大切です。


税務署への開示請求で確認できる生前贈与

暦年課税による贈与の合計額

暦年課税による贈与については、相続税の計算上の「加算対象期間」に含まれる贈与のうち、贈与税申告書に記載された課税価格の合計額が開示対象となります。

従来は「相続開始前3年以内」と説明されることが一般的でしたが、2024年1月1日以後の贈与については、税制改正により加算対象期間が段階的に7年へ延長されます。


被相続人の死亡日ごとの対象期間は、次のとおりです。

・2026年12月31日までに相続が開始した場合 原則として相続開始前3年以内

・2027年1月1日から2030年12月31日までに相続が開始した場合 2024年1月1日から相続開始日まで

・2031年1月1日以後に相続が開始した場合 原則として相続開始前7年以内


そのため、「税務署への開示請求で分かるのは常に3年分」とは限りません。相続開始日によって開示対象となる期間が変わる点に注意が必要です。

また、開示されるのは各年の贈与内容を一覧にした明細ではありません。国税庁の案内では、暦年課税分と相続時精算課税分の区分ごとの合計額が開示され、各年分ごとの合計額が開示されるわけではないとされています。


相続時精算課税による贈与の申告額

相続時精算課税の適用を受けた贈与についても、贈与税申告書に記載された課税価格の合計額が開示対象となります。

開示結果に相続時精算課税分の金額が記載されていれば、その相続人が被相続人から相続時精算課税による贈与を受けていたことを把握する有力な手がかりになります。

ただし、2024年1月1日以後の相続時精算課税には年110万円の基礎控除が設けられています。開示される金額は、原則としてこの基礎控除後の贈与税の課税価格です。

基礎控除の範囲内で申告書が提出されていない贈与などは、開示結果に表れない可能性があります。そのため、開示結果だけで相続時精算課税の利用歴や贈与の全容を常に確認できるとは限りません。


税務署への開示請求だけでは分からない生前贈与

個別の贈与日や財産の内容

相続税法49条の開示請求によって分かるのは、基本的に贈与税の課税価格の合計額です。

例えば、合計2,000万円という金額が開示されても、次のような情報まで当然に判明するわけではありません。

・いつ贈与されたのか

・現金、不動産、株式のいずれだったのか

・一度に贈与されたのか、複数回に分けられたのか

・住宅購入、開業、生活費など、どのような目的だったのか

・現在、その財産がどのような形で残っているのか

特別受益に該当するかどうかを判断するには、贈与の金額だけでなく、贈与の目的、被相続人と受贈者の資産・収入、家族関係などを検討する必要があります。


贈与税申告がされていない贈与

税務署への開示は、税務署に存在する贈与税申告の情報を前提とする制度です。

現金の手渡し、家族名義口座への少額ずつの送金、名義預金、不動産購入代金の肩代わりなど、贈与税の申告が行われていないものについては、開示請求だけでは把握できないことがあります。

また、暦年課税の対象期間外に行われた古い贈与も、相続税法49条の開示対象には含まれない可能性があります。

税務上の加算対象期間と、民法上の特別受益として問題になる贈与の範囲は、必ずしも一致しません。


開示結果だけで特別受益が確定するわけではない

開示書は、他の相続人に一定額の贈与税申告があったことを示す客観的資料として役立ちます。

しかし、贈与税申告があることと、その贈与が民法上の特別受益に該当することは別の問題です。

反対に、贈与税申告がなかったとしても、実際には特別受益に該当する生前贈与が行われていた可能性があります。

そのため、税務署への開示請求は、特別受益を直接証明する決定的な証拠というよりも、贈与の存在や規模を調べるための「有力な手がかり」と位置付けるのが適切です。


神奈川県で相続税法49条の開示請求を行う方法

提出先は被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署

開示請求書の提出先は、開示請求者の住所地を管轄する税務署ではなく、被相続人が死亡した時の住所地等を管轄する税務署です。

神奈川県内でも、横浜市、川崎市、相模原市、藤沢市、横須賀市など、被相続人の住所によって所轄税務署が異なります。最寄りの税務署に提出すればよいとは限らないため、提出前に管轄を確認しましょう。


開示請求を行える時期

開示請求は、被相続人が死亡した年の3月16日以後に行います。

例えば、被相続人が1月に死亡した場合には、その年の3月16日まで待つ必要があります。3月16日以後に死亡した場合には、この日付による待機期間は生じません。

税務署長は、適法な開示請求があった場合、原則として請求後2か月以内に開示を行うこととされています。相続税の申告期限は、通常、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内であるため、必要性が判明した段階で早めに準備することが重要です。


提出方法と手数料

開示請求書と添付書類をPDF化し、e-Taxから提出できます。

書面を税務署の窓口に持参する方法や、郵送による提出も可能です。開示請求の手数料は不要です。


主な添付書類

国税庁の案内では、遺産分割の状況に応じて、主に次の資料を添付することとされています。

・遺産の全部について分割済みの場合 遺産分割協議書の写し

・遺言書がある場合 開示請求者および開示対象者に関する遺言書の写し

・上記以外の場合 開示請求者および開示対象者に関する戸籍謄本または戸籍抄本

開示書を郵送で受け取る場合には、住民票の写しや、切手を貼った返信用封筒も必要です。


他の相続人の過去の住所や旧姓も確認する

開示請求書には、開示対象者の現在の住所だけでなく、過去の住所、旧姓、生年月日、被相続人との続柄などを記載する欄があります。

贈与税は受贈者の住所地を管轄する税務署に申告されるため、対象者が転居を繰り返している場合には、戸籍の附票などから過去の住所を確認しておくと、申告情報の特定に役立ちます。国税庁の現行様式でも、開示対象者の過去の住所等を記載するよう求められています。


【参考】開示請求書の書式はこちら


特別受益を立証するために集めたい証拠

被相続人の預貯金取引履歴

金銭の贈与が疑われる場合、まず確認したいのが被相続人の預貯金取引履歴です。

特定の相続人への振込み、多額の現金出金、不動産購入時期に近い資金移動などがあれば、贈与を裏付ける手がかりになります。

可能であれば、受贈者側の口座履歴、不動産の購入資料、住宅ローンの返済状況などと照合します。

単に被相続人の口座から現金が引き出されているだけでは、誰が取得したのか分からないため、その前後の事情を示す資料も重要です。


参考記事

・預金取引履歴の開示請求のポイント

・親の預金を開示しない相続人がいる場合、預金の調査方法を解説


贈与契約書や贈与税申告書

贈与契約書、贈与税申告書の控え、相続時精算課税選択届出書などが残っていれば、贈与の当事者、時期、対象財産を確認する有力な証拠になります。

被相続人の自宅や貸金庫、書類保管場所に、税理士とのやり取りや申告書の控えが残されていないか確認しましょう。


不動産登記や固定資産税関係資料

土地や建物の贈与が疑われる場合は、登記事項証明書を取得します。

所有権移転の原因が「贈与」と記載されていれば、生前贈与を示す重要な資料になります。固定資産評価証明書、売買契約書、購入代金の領収書なども、贈与財産の評価や資金の流れを確認するために役立ちます。


メール、手紙、日記、メモ

被相続人と受贈者とのメールや手紙、被相続人が残した日記、財産管理メモなどに、贈与の趣旨が記載されていることがあります。

「自宅を購入するために渡した」「相続分の代わりとして援助した」といった記載があれば、贈与が相続分の前渡しであったことを示す資料になり得ます。

ただし、作成者、作成時期、記載の経緯などによって証拠としての評価は異なります。他の客観的資料と組み合わせて主張することが重要です。


神奈川県の弁護士が解説する開示請求の活用例

遺産分割で特別受益を主張するケース

例えば、長男が被相続人から住宅資金として2,000万円を受け取った疑いがあるものの、他の相続人には具体的な資料がないケースを考えます。

相続税法49条の要件を満たす場合に開示請求を行い、暦年課税または相続時精算課税による申告額が確認できれば、贈与の存在や規模を調査する出発点になります。

その後、被相続人の預金履歴や不動産購入資料を調査し、開示された金額と資金移動が一致するかを確認します。

複数の資料が相互に整合すれば、贈与の存在と金額について、より具体的な主張が可能になります。


遺留分侵害額請求で生前贈与を調査するケース

遺言によって特定の相続人が遺産の大部分を取得し、その相続人が生前にも多額の贈与を受けていた場合には、遺留分侵害額請求を検討することがあります。

この場合も、税務署の開示情報は、生前贈与を調査する資料の一つになります。

ただし、遺留分侵害額請求には期間制限があります。原則として、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと時効により消滅し、相続開始から10年が経過した場合にも権利行使ができなくなります。

開示結果を待っている間に期間が経過する可能性もあるため、遺留分の請求意思を相手方に伝える手続は、開示請求とは別に期限を管理しなければなりません。


参考記事

特別受益と遺留分の関係や計算について解説


相続税申告の漏れを防ぐケース

他の相続人に対する生前贈与の金額が分からないと、相続税申告に必要な加算が漏れる可能性があります。

相続税法49条の開示請求は、本来、このような申告漏れを防ぎ、適正な相続税申告や更正の請求を行うための制度です。

遺産分割上の特別受益調査だけでなく、相続税申告上の問題がある場合には、弁護士と税理士が連携して調査を進めることが有効です。


特別受益をめぐるトラブルで注意すべき点

生前贈与がすべて特別受益になるわけではない

贈与の存在と金額を証明できても、その贈与が当然に特別受益になるわけではありません。

被相続人の資産規模、贈与を受けた相続人の収入や生活状況、他の相続人に対する援助の有無、贈与の目的などを総合的に検討します。

例えば、日常の生活費として毎月一定額を送金していた場合と、住宅購入の頭金として一度に数千万円を交付した場合とでは、特別受益としての評価が異なる可能性があります。


贈与ではなく貸付けと反論されることがある

被相続人から相続人に金銭が移動していても、相手方から「贈与ではなく借入れだった」と反論されることがあります。

借用書、返済履歴、利息の支払い、被相続人の確定申告書などを確認し、贈与だったのか貸付けだったのかを検討する必要があります。

形式上は貸付けであっても、返済を求めていなかった、返済能力がないことを前提に交付されていたなどの事情があれば、実質的な贈与であったかが争われることもあります。


長期間放置すると特別受益を考慮できない場合がある

現在の民法では、相続開始から10年を経過した後に行う遺産分割については、原則として特別受益や寄与分を反映した具体的相続分ではなく、法定相続分または指定相続分によることとされています。

一定の例外や経過措置があるため個別の確認が必要ですが、証拠の散逸を防ぐ意味でも、相続問題を長期間放置することは避けるべきです。


神奈川県で特別受益の問題を弁護士に相談するメリット

開示請求を利用できるか判断できる

相続税法49条の開示請求には、請求者、請求目的、開示対象となる贈与の範囲について条件があります。

弁護士に相談することで、依頼者が制度上の請求要件を満たしているか、開示請求が遺産分割上の争点解決にどの程度役立つかを整理できます。

相続税申告との関係がある場合には、税理士との連携も必要です。


開示結果と他の証拠を組み合わせられる

特別受益の立証では、税務署の開示書だけを提出するのではなく、預金履歴、不動産登記、契約書、メールなどを組み合わせて、贈与の全体像を示すことが重要です。

弁護士は、想定される相手方の反論を踏まえ、どの事実をどの証拠によって立証するかを整理します。


遺産分割調停や審判を見据えて対応できる

相続人間の話合いで解決できない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停を利用します。

調停でも特別受益について争いがあれば、贈与の時期、金額、目的などを整理した主張書面と、それを裏付ける証拠を提出する必要があります。

神奈川県内の相続であっても、被相続人や相手方の住所などによって管轄する家庭裁判所が異なる場合があります。弁護士に依頼することで、管轄の確認から資料収集、調停・審判への対応まで一貫して進めることができます。


まとめ|税務署への開示請求を特別受益の調査に活用する

相続税法49条に基づく開示請求を利用すると、一定の要件のもとで、他の相続人等が受けた暦年課税による贈与や、相続時精算課税による贈与の申告額を確認できます。

ただし、開示請求は相続税申告や更正の請求に必要な場合に利用する制度であり、相続人なら誰でも、特別受益の調査目的で自由に利用できるものではありません。

また、開示されるのは贈与税申告書に記載された一定の合計額です。個別の贈与日、対象財産、贈与目的までは分からず、無申告の贈与や対象期間外の贈与も把握できない可能性があります。

そのため、税務署の開示情報は、特別受益を直接確定する資料ではなく、贈与の存在と規模を調査するための有力な手がかりとして活用することが重要です。

神奈川県で他の相続人への生前贈与が疑われる場合には、できるだけ早い段階で預金履歴や不動産資料を確保し、開示請求の利用可否も含めて弁護士や税理士に相談しましょう。

個別の相続関係、贈与の時期、相続税申告の状況によって、取るべき手続や集めるべき証拠は異なります。期限が問題になる手続もあるため、疑いを持った段階で調査を始めることが大切です。


以上、特別受益は税務署で調べられる?神奈川県の弁護士が解説でした。


『止まった相続を終わらせる弁護士』大石誠

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特別受益は税務署で調べられる?神奈川県の弁護士が解説

【追記】

税理士・司法書士・行政書士の先生に依頼したのに、相続が止まったままではありませんか?

手続は進んでも話し合いが進まない。相続が止まるのには理由があります。

「止まった相続を終わらせる」という考え方はこちらにも掲載しました。

 
 
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