死後に引き出した預貯金は遺産?横浜での相続トラブル対処法
- 誠 大石

- 10月20日
- 読了時間: 9分
相続が発生すると、遺産をどのように分けるかという問題が避けて通れません。中でも近年増えているのが、「亡くなった人の預貯金が誰かに引き出されていた」というケースです。このような場合、他の相続人から「それも遺産として分けるべきではないか?」という声が上がり、トラブルになることが多くあります。
特に横浜のような都市部では、金融機関の口座数や資産額も多く、預貯金の扱いが争点になりやすい傾向があります。相続人が複数いる場合、誰がいつ、どのようにお金を引き出したのか、正確に把握することは容易ではありません。
本記事では、「死後に引き出された預貯金は遺産になるのか?」という疑問をテーマに、民法の規定や判例、そして実際に横浜で起きたトラブルの事例を交えながら、弁護士の視点でわかりやすく解説していきます。
死後に引き出された預貯金は「遺産」になるのか?
相続において「遺産」と認められる財産には一定の条件があります。
基本的には、①被相続人(亡くなった方)が死亡時点で所有しており、②その財産が現在も存在していること、③遺産分割がまだなされていないこと、④そしてプラスの財産(積極財産)であること、という4つの要件を満たす必要があります。
この基準から考えると、被相続人の死後に誰かが口座から引き出した現金は、既に「存在していない」ため、原則として遺産には含まれません。つまり、他の相続人が「そのお金も分けてほしい」と言っても、遺産分割の対象からは外れてしまうのが通例です。
しかし、それでは不公平な結果となる場合もあります。例えば、ある相続人が勝手に預金を引き出して使ってしまった場合、そのまま放置すれば他の相続人は正当な取り分を受け取れないことになります。こうした不均衡を是正するために、民法改正で新たに設けられたのが「民法906条の2」です。この条文によって、一定の条件下では、死後に引き出された預貯金も「遺産」とみなすことが可能となりました。
つまり、「死後に引き出された預貯金は絶対に遺産ではない」とは限らず、法律上の特例によって救済されるケースがあるということです。
【弁護士が解説】民法906条の2の適用と注意点
民法906条の2は、死後に誰かが引き出した預貯金についても、一定の条件下で「遺産」として扱えることを定めた条文です。2018年の民法改正により新設され、相続実務において非常に重要な役割を果たしています。弁護士の視点から、この規定の適用条件と注意点を見ていきましょう。
まず第1項では、被相続人の財産が相続開始後に処分されていても、相続人全員の同意があれば、その財産を遺産として扱うことができるとされています。実際にはもう存在しない財産であっても、分割の対象とすることが可能になります。例えば、相続人の一人が預金を引き出していた場合でも、全員が「それも遺産として扱おう」と合意すれば、その金額を計算に含めて遺産分割ができます。
一方、第2項では例外的に、処分者が相続人の一人である場合、その処分者の同意は不要とされています。つまり、他の相続人が勝手に引き出した預金であっても、その本人の同意がなくても遺産とみなすことが可能になるのです。ただし、この適用には「誰が引き出したのか」が明確に特定されている必要があります。
注意しなければならないのは、処分者の特定が曖昧な場合にはこの規定が使えないという点です。たとえば通帳や印鑑が他の相続人に渡っていて、誰が引き出したのか分からないケースでは、民法906条の2を適用するのが難しくなります。このような場合は、後述するように「遺産確認訴訟」や「不当利得返還請求」などの法的手段を検討することになります。
このように、民法906条の2は便利な規定である一方、慎重な運用が求められます。次の章では、実際に横浜で起こった事例をもとに、より具体的なケースを紹介します。
横浜で実際に起きた相続トラブルの事例紹介
横浜市内のある家庭で、父親が亡くなった直後、相続人の一人である長男が被相続人名義の銀行口座から約300万円を引き出していたという事例がありました。長男は「葬儀費用や生活費のため」と主張しましたが、他の相続人である兄弟たちはその使い道に納得できず、「そのお金も遺産に含めて再計算すべきではないか」と主張。結果的に、相続全体の分割協議がストップしてしまいました。
このようなケースでは、まず「誰が引き出したのか」が明確であることが、法的な対応をとるうえで重要になります。今回の例では、銀行の出金記録と監視カメラ映像などから長男が処分者であることが確認できたため、民法906条の2第2項の適用が可能となりました。
次に問題となったのが、他の相続人がその引き出された金額を「遺産として扱いたい」と希望する場合、長男の同意が必要かどうかという点です。しかし、906条の2第2項により、処分者本人の同意は不要とされており、残りの相続人たちが合意すれば、その300万円を遺産分割に組み入れることができました。
このように、横浜でも実際に民法906条の2を活用することで、相続人間の公平な分割を実現したケースがあります。一方で、処分者が不明な場合や、金額の正確な証明が困難な場合には、訴訟を含むさらなる法的対応が必要になります。
不法行為や不当利得による法的手段の選択肢
死後に引き出された預貯金について、民法906条の2を適用できない、あるいは相続人間での合意が得られない場合には、他の法的手段を検討する必要があります。
代表的なのが、「遺産確認訴訟」「不法行為に基づく損害賠償請求」「不当利得返還請求」の3つです。それぞれの特徴を押さえておきましょう。
まず、「遺産確認訴訟」とは、ある財産が遺産に該当するかどうかを裁判所に確認してもらうための手続きです。
例えば、死後に引き出された預貯金について「それは遺産に含まれるべきだ」と主張する相続人が、処分者や他の相続人を相手取って訴訟を起こすことで、財産の帰属を明確にすることができます。民法906条の2の第2項に基づいた法的主張を展開し、「遺産に含めるべきである」と裁判所に認定してもらうことが目的です。
「死後に払い戻された預貯金が民法906条の2第2項に規定により遺産に含まれることの確認を求める遺産確認訴訟」といいます。
次に、「不法行為に基づく損害賠償請求」は、引き出した相続人が他の相続人の権利を侵害したと認められる場合に使います。たとえば、他の相続人に無断で全額を引き出して私的に使用していたようなケースでは、「故意または過失によって不法に損害を与えた」として、損害の賠償を求めることが可能です。
さらに、「不当利得返還請求」は、法律上の原因なく利益を受けた場合に、その利益の返還を求めるものです。相続人の一人が、他の相続人の同意なく被相続人の預金を引き出して自分の利益としていた場合、その金額相当の返還を求めることができます。
これらの手段はいずれも裁判を通じて解決を図るものであり、相手方との関係性や証拠の有無などによって適否が変わってきます。弁護士に相談することで、どの手段が最も適切かを判断し、スムーズな解決を図ることが可能になります。
相続トラブルを防ぐためにできること
相続トラブルは、発生してからでは解決に多大な時間と労力を要することが多いため、可能な限り事前の備えが重要です。預貯金の引き出しによるトラブルも、少しの準備で防げるケースが多くあります。ここでは、相続トラブルを未然に防ぐための具体的な対策を紹介します。
まず、被相続人が元気なうちに「遺言書」を作成しておくことが最も効果的です。遺言書には、各相続人にどの財産をどのように分けるかを明記することができ、相続発生後の争いを大幅に減らすことができます。特に預貯金の取り扱いについては、「葬儀費用として長男に○○万円を引き出させる」など、具体的な用途と金額を書いておくと、後の誤解や不信感を防げます。
次に、家族間で「定期的に資産状況を共有しておく」ことも有効です。たとえば、銀行口座の残高や使途、キャッシュカードの保管場所などを家族で共有しておくことで、不透明な引き出しを未然に防ぐことができます。特に高齢の方がいる家庭では、信頼できる人を選任して財産管理を任せる「任意後見契約」を活用するのもひとつの方法です。
また、相続発生後すぐに金融機関に連絡し、口座を凍結しておくことも重要です。これにより、勝手な引き出しを防ぎ、正式な遺産分割協議まで財産を保全できます。横浜市内の多くの金融機関では、死亡届と戸籍謄本の提出により迅速に対応してくれるケースが多いため、早めの対応がカギとなります。
最後に、疑問や不安を感じた時点で、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
まとめと結論
遺産分割をめぐる相続トラブルの中でも、被相続人の死後に預貯金が引き出されていたというケースは、特に紛争の火種となりやすい問題です。原則として、すでに引き出された現金は「遺産」として扱われませんが、2018年に新設された民法906条の2によって、相続人の同意がある場合や処分者が特定されている場合には、分割の対象に含めることができるようになりました。
実際に横浜でも、こうした法改正を活用して問題を解決できた事例がありますが、その一方で、処分者の特定が困難なケースや相続人間での対立が激しいケースでは、法的手段を通じて争うことが避けられない場合もあります。
相続は「感情」と「お金」が絡む非常にデリケートな問題です。トラブルを避けるためには、事前の備えとして遺言書を作成したり、家族で資産の情報を共有したりすることが大切です。そして、相続開始後には速やかに金融機関へ連絡し、財産を保全する措置を講じることも重要です。
特に横浜のような都市部では、資産も多様で相続関係が複雑になりやすいため、専門的なサポートが不可欠です。
横浜の弁護士に相談する理由とお問い合わせ情報
相続問題は、単に法律の知識だけではなく、家族間の信頼関係や感情的な配慮も必要となる非常に複雑な問題です。特に、死後に引き出された預貯金の取り扱いについては、民法906条の2などの新しい法律の適用可否や、証拠の有無、相続人間の交渉力など、状況によって大きく結果が異なります。
こうしたトラブルを適切に解決するためには、相続問題に精通した弁護士のサポートを受けることが何よりも重要です。弁護士であれば、当事者間の感情的な対立を緩和しつつ、法的根拠に基づいた冷静なアドバイスを提供できます。また、相続人間での交渉はもちろん、必要に応じて遺産確認訴訟や不当利得返還請求など、裁判所を通じた対応も可能です。
相続トラブルを抱えている、または将来が不安という方は、まずは一度、横浜の相続に強い弁護士にご相談ください。初回相談を無料で受け付けている事務所も多く、早期の相談がトラブル回避への第一歩となります。
以上、「死後に引き出した預貯金は遺産?横浜での相続トラブル対処法」でした!
弁護士 大石誠
横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階 横浜平和法律事務所
【今すぐ相談予約をする】
電話:〔045-663-2294〕
LINE:こちらから




