top of page

【メモ】遺産分割時に被相続人名義の財産の2分の1は配偶者の固有財産であるとの主張

  • 執筆者の写真: 誠 大石
    誠 大石
  • 2024年5月28日
  • 読了時間: 4分

●我妻

「夫婦の財産の帰属には、およそ三種類のものがあるように思われる。(中略)第三は、名義は夫婦の一方に属するが実質的には共有に属するとなるべきものであって、婚姻中に夫婦が協力して取得した住宅その他の不動産、共同生活の基金とされる預金、株券などで夫婦の一方の名義となっているものは、これに属するといいうるであろう。」

「問題は第三のものである。現在の経済取引の形式的画一性からいって、対外的には、原則として(何等かの目的で名義だけを貸した場合を除いて)、その名義者の所有に属するものとして取り扱わねばならない。しかし、これらの財産は、夫婦が協力して取得し、共同生活の経済的基礎を構成するものだから、実質的な意味では共有に属するものとみなければならない。そして、離婚の際には当然に清算すべきであり、配偶者の死亡の場合にも遺産から控除して他の配偶者に取得させるべきである。かようにして、はじめて、夫婦の平等な立場における協力扶助の理想を経済的な面にまで貫くことになると考える。民法がかような点に考慮を払わなかったことが大きな欠点とされるものであること、すでにしばしば述べた通りである。それは確かにそうであるが、現行法の解釈としても、この程度の主張はできるのではあるまいか。」

(我妻榮「法律学全集23 親族法」(有斐閣 初版 昭和36年)102~103ページ)


●裁判例

平成12年3月10日 最高裁判所第1小法廷決定 民集54巻3号1040頁

民法は、法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し、前者の場合には財産分与の方法を用意し、後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしている。このことにかんがみると、内縁の夫婦について、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとしても、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。また、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もない。したがって、生存内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して清算的要素及び扶養的要素を含む財産分与請求権を有するものと解することはできないといわざるを得ない。」

※内縁の夫婦が死亡した場合に、財産分与の規定を類推適用できるか、という論点


②東京地方裁判所判決 平成28年7月11日

「前記争いのない事実等及び証拠(甲64,乙11,12,原告本人,被告Y2本人)によれば,亡Aは,家業の経理や夫婦の財産の管理等をすべて被告Y1に任せていたことが認められ,本件預貯金等も被告Y1が家業からの収入等をもとに亡A名義で形成・管理していた財産であると認められるが,夫婦の収入によりそれぞれの名義で形成された預貯金等は,財産分与等の婚姻関係の清算場面を別とすれば,特段の事情がない限りその各名義人の固有財産と認めるのが相当であり,これと別異に解すべき事情は本件では見当たらない。」


③東京地方裁判所判決 令和2年3月26日

「夫婦の共有財産に関しては,合意又は審判を通じて財産分与請求の具体的な権利が形成されない限り,夫婦の一方が相手方に主張することができる具体的な権利が発生したとはいえない。しかし,財産分与の具体的内容が,合意又は審理を通じて確定することとなるのはそのとおりであるとしても,そのことから直ちに,婚姻期間中に形成された共有財産に関して,夫婦の一方が他方に対して何ら権利を主張することができなくなるとまではいえない。婚姻関係が継続している場面では,夫婦の資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担するとされ(民法760条),日常家事債務について連帯責任を負うものとされている(民法761条)とおり,婚姻から生じる費用は夫婦が分担するものとされている一方で,専ら一方の利益のみのために夫婦の共有財産を用いることまでが許容されるものではない。これらに照らすと,夫婦共有財産である配偶者の一方の名義の預貯金を他の配偶者が管理している間は,婚姻に要する費用を支出するため,預貯金を管理する配偶者は,他方の配偶者の明示又は黙示の委託の趣旨に従って共有財産を管理しているものというべきであり,夫婦の一方が共有財産を家族の生活のために用いる場合には,夫婦又は親子としての扶養義務に著しく反するような態様でない限り,上記委託の趣旨に反するものとはいえないが,委託の趣旨に反するような使用に関しては,不当利得返還請求の対象となり得ると解するべきである。」


最新記事

すべて表示
【メモ】いわゆる危急時遺言について、民法所定の口授、筆記、読み聞かせ等の事実が認められないとして、遺言の無効を確認した事例

遺言無効確認請求控訴事件 東京高裁 令和6年8月29日判決 原審(横浜地裁)は、自宅において遺言の趣旨を口授したとの事実を認定した上で、同日に入院先の病院において遺言の趣旨を口授したとする本件遺言の記載と口授の場所が異なる点は遺言の無効原因にならないとした。...

 
 
【メモ】遺言公正証書の存在を告げないことと相続欠格事由

「相続人による遺言書の破棄・隠匿行為が「相続に関して不当な利益を目的とする」ものでないときは、5号に言う相続欠格者にあたらない。このように判例は、5号については二重の故意を必要とする立場を採用しているものと言える。通説も、二重の故意を要求している。他方、偽造・変造・破棄・隠...

 
 
【メモ】信託の終了に関する紛争

信託契約に、信託の終了に関し、 「受益者は、受託者との合意より、本件信託を終了することができる。」 旨の条項が存在する場合の解釈 信託法164条1項は「委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。」と規定している。...

 
 
bottom of page