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【メモ】遺産共有と共有持分の併存

執筆者の写真: 誠 大石誠 大石

●遺産共有持分と他の共有持分が併存する場合における共有関係の解消

判例(最二小判平成25年11月29日(民集67巻8号1736頁))は、遺産共有持分と他の共有持分との共有関係を解消する方法として裁判上採るべき手続は、共有物分割訴訟であり、その共有物分割訴訟において、遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法によることもできるとし、このような価格賠償による判決がされた倍、遺産共有持分権者に対して支払われる賠償金は、遺産分割により帰属が確定されるべきものであり、賠償金の支払を受けた者は、遺産分割がされるまでの間、これを保管する義務を負うと判示した。」

(片岡・管野編著「第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」日本加除出版 420頁)


●最二小判平成25年11月29日(民集67巻8号1736頁)

共有物について,遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい,これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合,共有者(遺産共有持分権者を含む。)が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照)。

そうすると,遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には,遺産共有持分権者に支払われる賠償金は,遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから,賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は,これをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うというべきである。

そして,民法258条に基づく共有物分割訴訟は,その本質において非訟事件であって,法は,裁判所の適切な裁量権の行使により,共有者間の公平を保ちつつ,当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられることに照らすと,裁判所は,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする価格賠償の方法による分割の判決をする場合には,その判決において,各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で,遺産共有持分を取得する者に対し,各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができるものと解するのが相当である。」


⇒物権共有と遺産共有とが併存しており、物権共有と遺産共有の解消は「共有物分割訴訟」によるべき、これを解消した後の遺産共有の解消は「遺産分割」によるべき、と交通整理をした


●相続財産に属する共有物の分割の特則

令和3年法改正

「相続財産が数人の相続人及び相続人以外の者の共有に属する場合において、遺産共有の解消は遺産分割の手続によらなければならないのが原則である(民法258条の2第1項〔新設〕)が、相続開始の時から10年を経過したときは、例外的に相続財産に属する共有物の持分(遺産共有持分)について、その解消を共有物分割の手続によることができる(同条2項〔新設〕)。ただし、①当該共有物の持分について遺産分割の請求があり、かつ、②相続人が、共有物分割請求を受けた裁判所から訴状の送達を受けた日(当該請求があった旨の通知を受けた日)から2か月以内に、当該裁判所に対し、当該持分について共有物分割の手続によることへの異議の申出をしたときは、当該持分について共有物分割の手続によることはできない(同条3項)」

(片岡・管野編著「第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」日本加除出版 420頁)


●改正後の民法258条の2第1項

「共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。」

⇒遺産共有の解消は、遺産分割手続によること(共有物分割訴訟を利用できない)を明文化した

 
 

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