代償分割について
代償分割で遺産を取得するときの考慮要素
根拠条文:家事事件手続法195条
相続人間の実質的な公平を害しないと認められる特別の事情があるときは、これを認めることとしている
「特別の事情」の具体例;
①現物分割が不可能な場合
例えば、一棟の建物で区分所有できない建物
②現物分割が相当でない場合
分割後の財産の経済的価値を著しく損なうような場合
土地を細分化した場合に、利用価値や経済的価値が下がる場合、分割により接道しない土地が生じる場合など
預貯金については、口座単位で帰属を決めるのが相当である
③特定の利用状況を保護すべき場合
例えば、配偶者の居住確保の必要性がある場合の住居用建物など
農業経営や事業経営に遺産の一括取得が不可欠な場合も含む
④相続人の同意等がある場合
当事者間の合意がある場合や、明らかな反対がないような場合
代償金の支払能力;
代償分割が認められるためには、「特別の事情」に加えて、代償金の支払能力(代償金全額を確実に支払える能力)があることが求められる。
(最判平成12年9月7日)
融資による支払能力は除外されないが、取得した遺産を売却して作る資金のみをもって支払能力とすることは原則として認められない。
ただし、固有財産を売却して資金調達することができれば、その意思があり、かつ、可能な場合には、これをもって支払能力アリとすることは可能
代償金債務は、即時一括払いが原則であるが、債務を即時に支払うことができない相続人に現物を取得させるのが最も妥当な分割方法と判断される場合には、支払に猶予期間を設け、また分割払いを認めることは可能
支払能力がないのに代償分割を認めることはできない
代物弁済による支払;
給付する相続人と給付を受ける相続人の合意がある場合には許されるという「見解」はある
代償として固有財産を無償で譲渡することを許容した裁判例もある
代償金支払義務の不履行;
代償金支払い義務の不履行があった場合でも、調停又は審判の効果に影響はない。
合意事項の解除もできない
強制執行による回収をすべき
家庭裁判所の遺産分割事件における具体的な分割方法について
参考文献
松本哲泓「設例解説 遺産分割の実務 ―裁判官の視点による事例研究―」令和6年9月 310~315ページ