●委託者が実現したいことが財産管理であるのか、財産承継であるのか、それとも、その両方であるのかを検討する。財産管理であれば、任意後見と民事信託が選択肢になり、財産承継であれば、遺言と民事信託が選択肢となる。
(家庭の法と裁判 35号 8ページ)
●信託監督人は、全ての受益者のために、自己の名をもって受託者の監督や受益者保護に関する権限を行使する。他方、受益者代理人は、その代理する特定の受益者のために、代理人として、受益債権に関する権限や信託の意思決定に関する権限を含む、受益者が有する信託法上の一切の権利を行使する権限を有する。
いずれも受益者の保護のために受託者に対する監督権限を有する点で共通するが、受益者代理人が選任されると、受益者本人は、信託法92条各号の権利及び信託行為において定めた権利しか行使できなくなり(信託法139条4項)、受益者本人の権利が制限されることになる。受託者の監督という観点からは、原則として信託監督人の活用を考え、特に受益者代理人を選任する事情がある場合に、受益者代理人を利用することが望ましいといえる。
(家庭の法と裁判 35号 20ページ)
●遺留分侵害行為をどのように捉えるかについては学説の対立がある。遺留分権利者の権利を侵害する行為は、①受益者に対して受益権を付与する行為なのか(受益権説)、②信託設定行為それ自体なのか(信託財産説)、③その双方が一体となって遺留分侵害行為と評価されるのか(折衷説)について見解の一致をみていない。
①の立場からは、遺留分侵害額請求の価額(民法1043条1項)は受益権の価額となる。これに対し、②の立場からは、遺留分侵害額請求の相手方は受託者となり、相続財産の価額は信託財産の価額と解することになる。
従前、②の立場に対しては、遺留分減殺請求権が行使される結果、信託財産が受託者と遺留分権利者との間で共有になり不都合であるとの批判がなされていた。しかし、相続法が改正され、遺留分の請求が金銭債権化したことから、この批判については妥当しなくなったと考えられる。
相続法改正により信託と遺留分に関する論点にどのような影響を与えるかは、今後の検討課題である。
(家庭の法と裁判 35号 21~22ページ)